一 木曾街道、奈良井の駅は、中央線起点、飯田町より一五八哩二、海抜三二〇〇尺、と言い出すより、膝栗毛を思う方が手っ取り早く行旅の情を催させる。 ここは弥次郎兵衛、喜多八が、とぼとぼと鳥居峠を越すと、日・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・そしてその乗合自動車のやって来る起点は、ちょうどまたこの溪の下流のK川が半町ほどの幅になって流れているこの半島の入口の温泉地なのだった。 温泉の浴場は溪ぎわから厚い石とセメントの壁で高く囲まれていた。これは豪雨のときに氾濫する虞れの多い・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・ そういう事のないように、その特別な一日を起点としてその後引続いて善い事をする習慣をつけるという目的で、少なくも今度の「節約日」は宣伝され奨励されたものであろうと思われる。そうでなければ宣伝ビラの印刷費用だけでもかえって濫費になる勘定で・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ この記事より二年前明治四十二年十一月を起点とした「どうなりゆくか」と題した彼の日記の最初のページからもうこの胃痛の記事が出て来る。そして学校の不愉快、人に対する不平、自己に対する不満、そういう感情の叙述と胃の痛みの記事とが交錯して出て・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・ウラジ・カウカアズが、その起点となっているのであった。 一軒のホテルへ着いて顔を洗い、町へブラブラ出て見ると、チフリスもそうであったがここもまだ夏の夜である。白いルバーシカ姿の人だかりがある店先へ行って見ると、玉ころがしに似た遊びをやっ・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
去年の丁度秋頃の事でした、私は長い旅行に出掛ける準備で、よく紐育市のペンシルバニアと云う停車場へ行き行きしました。其の停車場は、北米合衆国の首府である華盛頓の方へ行く鉄道の起点なので、東京駅などよりはずうっと大きな建物の中・・・ 宮本百合子 「私の見た米国の少年」
出典:青空文庫