・・・此一面より見れば愚なるが如くなれども、方向を転じて日常居家の区域に入り、婦人の専ら任ずる所に就て濃に之を視察すれば、衣服飲食の事を始めとして、婢僕の取扱い、音信贈答の注意、来客の接待饗応、四時遊楽の趣向、尚お進んで子女の養育、病人の看護等、・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・然るに西洋流の帳面をそのままに用い、横文の数字を横に記して、人の姓名も取引の事柄も日本の字を横に書き、いわば額面の文字を左の方から読む趣向にするものありと聞けり。 この趣向はなはだ便利なり。第一、西洋の帳面を摸製するにやすく、あるいは摸・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ 世に教育なるものの必要なるは、すなわちこのゆえにして、人学ばざれば智なきがゆえに、学校を建ててこれを教え、これを育するの趣向なり。されども一概に教育とのみにては、その意味はなはだ広くして解し難く、ために大なる誤解を生ずることあり。そも・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・『万葉』の作者が歌を作るは用語に制限あるにあらず、趣向に定規あるにあらず、あらゆる語を用いて趣向を詠みたるものすなわち『万葉』なり。曙覧が新言語を用い新趣味を詠じ毫も古格旧例に拘泥せざりしは、なかなかに『万葉』の精神を得たるものにして、『古・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・判者が外の人であったら、初から、かぐや姫とつれだって月宮に昇るとか、あるいは人も家もなき深山の絶頂に突っ立って、乱れ髪を風に吹かせながら月を眺めて居たというような、凄い趣向を考えたかもしれぬが、判者が碧梧桐というのだから先ず空想を斥けて、な・・・ 正岡子規 「句合の月」
・・・その理由を、今日の作家は文学青年の趣向に追随して、その作品の中で人間はいかに生きてゆくべきかという生きかたを示さず、小説の書きかたに工夫をこらしているからであると見る評論家作家たちによって、「大人の文学」論がいわれているのである。 従来・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・対外的の意味で何かやらなければならないという場合、とりつきやすいのは目の前の見た目に立つ趣向である。浦和からの娘子行進にしろ、目に立つことでは成功したろう。けれども、そこから生れた後味、それによってこそ行進した方の真の感激も、行進をながめた・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・大作の趣向を立てていたのだろう。」 木村はこう云う事を聞く度に、くすぐられるような心持がする。それでも例の晴々とした顔をして黙っている。「こないだ太陽を見たら、君の役所での秩序的生活と芸術的生活とは矛盾していて、到底調和が出来ないと・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・まだ電燈のない時代で、瓦斯も寺島村には引いてなかったが、わざわざランプを廃めて蝋燭にしたのは、今宵の特別な趣向であったのだろう。 燭台が並んだと思うと、跡から大きな盥が運ばれた。中には鮓が盛ってある。道行触のおじさんが、「いや、これは御・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・でも手紙を一本落しなすったばかりで、せっかくの趣向がこわれてしまったじゃありませんか。手紙を拾った翌日あなたの御亭主の正体が分かる。あなたのうそが分かる。そこでわたくしは無駄骨を折らなくてもいい事になる。あんな御亭主に比べて見れば、わたくし・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
出典:青空文庫