・・・も、それに対する殆ど痙攣的だった保身的批判理論も、どちらも、十五年たったきょう顧みれば、日本の治安維持法の殺人的跳梁に影響された現象だった。当時の権力はまんなかに治安維持法の極端な殺人的操法をあらわに据えて、それで嚇し嚇し、一方では正直に勇・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・小麦、バター、麻、羊毛あらゆる農業生産品の買占人が跳梁しはじめた。 こうして二年三年経つうちには、富農は反ソヴェト的な利害をもった農村の階級として、意外に深い根をおろした。一九二八年の秋を見るなら、我々は立ちどころに彼等の擾乱作用を理解・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・解子さんなどこういう才能の跳梁に「私は小説を書いてゆけるかしら」とききに来られました。作家の生活の張りの難しさを深く感じました。書いていると限りなし。ではこれで、この紙をどけ下から原稿紙を現してはじめます。「私の大学」の部を。シャパロフと並・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ かくて、作家は教養を求めんとして机にしばりつけられたのであったが、古典作品の鑑賞に於ては或る意味でのペダンティシズムが跳梁するばかりであるし、作品の現実はその関心の中心が益々技巧専一の職人的傾向に陥り、しかもそれらについての是非の論は・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・激しい歴史の動きにさらされながら、世界の良心あるすべての人々は、戦争放火者たちの跳梁に抗して、新しい人類の理性の勝利と美の確立のために奮闘している。わたしたちは、そのような世界と日本の現実の隅々までを見ようとする。新しく湧き出ようとしている・・・ 宮本百合子 「序(『日本の青春』)」
・・・日本の近代精神において、ヒューマニズムがいわれる場合、ほとんど常に、それが感性的な面のみの跳梁に終るという現象は、それ自体日本の近代精神の非近代性を語っていると思います。日本の精神は市民社会を知らず、自分一個の存在の社会的脊骨を自身のうちに・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・そして「かれが積極的になる時、飛躍する時、かれの性格の唯一の欠点である偏狭性が跳梁した」というに至って、誤謬はデマゴギー的性質にまで発展しているのである。この論法をもってすれば、同志小林が残虐きわまる拷問にあいつつ堅忍不抜、ついにボルシェヴ・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・たごた種々な色ばかり目につく食堂に物を食べているのは、我々ただ二人ぎりだということは、食うという動作に妙な自覚を与えられる――つまり、その感じを少しつきつめて行くと、度はずれな人気なさと錯雑した色彩の跳梁とで何処やらアラン・ポウ的幻想が潜ん・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・「学生と異教徒、百姓と著述家の上には、その生活の一歩ごとに労働者をかくも抑圧し圧迫するその同じ闇の力が跳梁跋扈していることを理解し、また感ずるであろう。」〔一九三二年十二月〕 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・田舎風な都会、一年の最高頂の時期は、罵声と殴り合いの合奏する巨額な金の集散、そのおこぼれにあずからんとする小人の詭計の跳梁、泥酔、嬌笑に満ち、平日は通俗絵入新聞が地方客に向って撒く文化を糧としつつ、ヴォルガ沿岸の農民対手の小商売で日暮してい・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫