・・・しかしながら行けども行けども他の道に出遇いかねる淋しさや、己れの道のいずれであるべきかを定めあぐむ悲しさが、おいおいと増してきて、軌道の発見せられていない彗星の行方のような己れの行路に慟哭する迷いの深みに落ちていくのである。四・・・ 有島武郎 「二つの道」
・・・且つ天の星の如く定った軌道というべきものもないから、何処で会おうかもしれない、ただほんの一瞬間の出来事と云って可い。ですから何日の何時頃、此処で見たから、もう一度見たいといっても、そうは行かぬ。川の流は同じでも、今のは前刻の水ではない。勿論・・・ 泉鏡花 「一寸怪」
・・・定木で引いた線のような軌道がずっと遠くまで光って走っていて、その先は地平線のあたりで、一つになって見える。左の方の、黄いろみ掛かった畑を隔てて村が見える。停車場には、その村の名が付いているのである。右の方には砂地に草の生えた原が、眠たそうに・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・地球の軌道は楕円の環をなしていると君達は思うだろうが大ちがいサ、実は月が地球のまわりを環をなしながら到底は大空間に有則螺線を描ていると同じ事に、地球も太陽に従ッて有則螺線を大空間に描いているのサ。即ち自転も螺旋サ。又一年の動きも螺旋サ。有則・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・そこには軌道が二筋ずつ四つか五つか並べて敷いてある。丁度そこへ町の方からがたがたどうどうと音をさせて列車が這入って来る処である。また岸の処には鉄の鎖に繋がれて大きな鉄の船が掛かっている。この船は自分の腹を開けて、ここへ歌いながら叫びながら入・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・定木で引いた線のような軌道がずっと遠くまで光って走っていて、その先の地平線のあたりで、一つになって見える。左の方の、黄いろみ掛かった畑を隔てて村が見える。停車場には、その村の名が付いているのである。右の方には沙地に草の生えた原が、眠そうに広・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・そうして九月上旬にもう一度行ったときに、温泉前の渓流の向こう側の林間軌道を歩いていたらそこの道ばたにこの花がたくさん咲き乱れているのを発見した。 星野滞在中に一日小諸城趾を見物に行った。城の大手門を見込んでちょっとした坂を下って行く・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・それで、ちょうど、ある弾丸の描く弾道はまた同時に他のすべての可能な弾道を代表するように、一遊星の軌道はまさしく天体引力の方則を代表するように、光源氏や葵の上の行動はまさしくその時代の男女の生活と心理の方則を代表するものとも考えられる。こうい・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・むしろ適当な程度の宣伝が各方面からせり上げてそのすべての合力によって世の中が都合よく正当な軌道を運転して行くのかもしれない。あるいは実際多くの宣伝者自身がこれぐらいの心持ちでめいめいの宣伝をやっているのかもしれない。そうだとすれば始めから問・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・食事をしながらも低声で談話は進行していたが、今までとちがって話が急に何か知らないがまじめな軌道へはいり込んだかのように見えた。 食事のあとでりんごか何か食っていたようであったが、とにかく三人のムードが、食前とはすっかり一変して、なんとな・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
出典:青空文庫