・・・すがえすも頼み上げ候 せめて士官ならばとの今日のお手紙の文句は未練に候ぞ大将とて兵卒とて大君の為国の為に捧げ候命に二はこれなく候かかる心得にては真の忠義思いもよらず候兄はそなたが上をうらやみせめて軍夫に加わりてもと明け暮れ申しおり候ここ・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・なるほど二人は内密話しながら露繁き田道をたどりしやも知れねど吉次がこのごろの胸はそれどころにあらず、軍夫となりてかの地に渡り一かせぎ大きくもうけて帰り、同じ油を売るならば資本をおろして一構えの店を出したき心願、少し偏屈な男ゆえかかる場合に相・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・それは、この船に乗って居た軍夫が只今コレラで死んだ、という事であった。これを聞くと自分の胸は非常な動悸を打ち始めて容易に静まらぬ。周囲は忽ちコレラの話となってしもうた。ただこの後の処分がどうであろうという心配が皆を悩まして居る内に一週間停船・・・ 正岡子規 「病」
・・・子供たちの将来は、そこに平和な社会というものを考えなければ、なりたたない。軍夫になるかもしれない子供たちの将来を、肯定することのできるただ一人のPTAの親もいないであろう。だけれども、もしかしたら、ここのPTAでも、ストックホルム・アッピー・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・そのように、日本という小さい貧しい島が、軍夫の島とさせられる可能がないとは云えない。――わたしたちがくれぐれも忘れてならないことは、そのアフリカの奴隷市、奴隷港でも、黒人奴隷売買の親方は同じ黒人の酋長や金持であったという事実である。・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
出典:青空文庫