・・・まずしい身なりをしていても、さすがに人品骨柄いやしからず、こいつただものでない、などというのは、あれは講談で、第二国民兵の服装をしているからには、まさしくそのとおり第二国民兵であって、そこが軍律の有難いところで、いやしくも上官に向って高ぶる・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・ という具合になり、君は軍律もクソもあるものか、とばかりに列から抜けて、僕のほうに走り寄り、「お待たせしまスた。どうスても、逢いたくてあったのでね。」と言った。 僕は君がしばらく故郷の部隊にいるうちに、ひどく東北訛りの強くなった・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・暗鬱な北国地方の、貧しい農家に生れて、教育もなく、奴隷のような環境に育った男は、軍隊において、彼の最大の名誉と自尊心とを培養された。軍律を厳守することでも、新兵を苛めることでも、田舎に帰って威張ることでも、すべてにおいて、原田重吉は模範的軍・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・されども海陸軍、必ずしも軍人のみをもって支配すべからず。軍律の裁判には、法学士なかるべからず。患者のためには、医学士なかるべからず。行軍の時に、輜重・兵粮の事あり。平時にも、もとより会計簿記の事あり。その事務、千緒万端、いずれも皆、戦隊外の・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・われわれは軍律上少しく変則ではあるがこれから食事を始める。」兵士悦ぶ。曹長特務曹長「いや、盗むというのはいかん。もっと正々堂々とやらなくちゃいけない。いいか。おれがやろう。」特務曹長バナナン大将の前に進み直立す。曹長以下これ・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
出典:青空文庫