・・・ 深山軍曹に引率された七人の兵士が、部落から曠野へ、軍装を整えて踏み出した。それは偵察隊だった。前哨線へ出かけて行くのだ。浜田も、大西も、その中にまじっていた。彼等は、本隊から約一里前方へ出て行くのである。 樹木は、そこ、ここにポツ・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・特務曹長「けれどもこれから私共は毎日将軍の軍装拝しますごとに烈しく良心に責められなければなりません。」大将「いいや、今わしは神のみ力を受けて新らしい体操を発明したじゃ。それは名づけて生産体操となすべきじゃ。従来の不生産式体操と自ら撰・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ヴィンダー ――ところで、妙な軍装の奴が現れたぞ。今のところでは俺の味方に廻って、壊しやの手先になって呉れる奴か、或は又逆に鉾を向けて、所謂文明の擁護をする奴か、一寸見分けがつかぬ。ミーダ ふうむ。武器を持っている。血相もどうやら変・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・首相に就任したときの軍装写真で、何となく下げている右手の拇指と人さし指をひとりでに軽く円くよせて、丁度仏さんの右手を下へ垂れたような工合になっていたのが、目にのこっている。あれは、このひとの粗笨でない心の或るリズムを語っているように感じた。・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・列のかしらは軍装したる国王、紅衣のマイニンゲン夫人をひき、つづいて黄絹の裙引衣を召したる妃にならびしはマイニンゲンの公子なりき。わずかに五十対ばかりの列めぐりおわるとき、妃は冠のしるしつきたる椅子に倚りて、公使の夫人たちをそばにおらせたまえ・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫