・・・勝軍地蔵は日本製の地蔵で、身に甲冑を着け、軍馬に跨って、そして錫杖と宝珠とを持ち、後光輪を戴いているものである。如何にも日本武士的、鎌倉もしくは足利期的の仏であるが、地蔵十輪経に、この菩薩はあるいは阿索洛身を現わすとあるから、甲を被り馬に乗・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
去年の暮から春へかけて、欠食児童のための女学生募金や、メガフォン入りの男学生の出征兵士や軍馬のための募金が流行したが、これらはいつの間にか下火になった。そうしてこの頃では到る処の街頭で千人針の寄進が行われている。これは男子・・・ 寺田寅彦 「千人針」
・・・それを軍馬が壊すので、村民がしなければならない。爺さんまで出て腰の煙草入を振り振りモッコの片棒担いでいる。 附近に陸軍飛行機学校、機関銃隊、騎兵連隊、重砲隊などがある。開墾部落はその間に散在しているのだ。 南京豆と胡麻畑の奥に、小さ・・・ 宮本百合子 「飛行機の下の村」
・・・「一匹の軍馬よりもやすい兵卒の命」は雀躍して皇国に殉じることを名誉と感じて疑わないように。妻子父母は、国のために、不幸を名誉としてよろこばなければならない。宮様と同じ隊であった息子が、前線で戦死したことを息子の余栄として、皇后の巻かれた繃帯・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・あたかもそれは、ナポレオンの軍馬が破竹のごとくオーストリアの領土を侵蝕して行く地図の姿に相似していた。――この時からナポレオンの奇怪な哄笑は深夜の部屋の中で人知れず始められた。 彼の田虫の活動はナポレオンの全身を戦慄させた。その活動の最・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫