・・・と云うよりも袈裟を辱めた。そうして今、己の最初に出した疑問へ立ち戻ると、――いや、己が袈裟を愛しているかどうかなどと云う事は、いくら己自身に対してでも、今更改めて問う必要はない。己はむしろ、時にはあの女に憎しみさえも感じている。殊に万事が完・・・ 芥川竜之介 「袈裟と盛遠」
・・・……「されば恐らく、えるされむは広しと云え、御主を辱めた罪を知っているものは、それがしひとりでござろう。罪を知ればこそ、呪もかかったのでござる。罪を罪とも思わぬものに、天の罰が下ろうようはござらぬ。云わば、御主を磔柱にかけた罪は、それがしひ・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・すると父から非常にしかられて、早速今夜あやまりに行けと命ぜられ長者を辱めたというので懇々説諭された。 その晩、僕は大沢先生の宅を初めて訪ねたが、別にあやまるほどの事もなく、老先生はいかにも親切にいろいろな話をして聞かして、僕は何だか急に・・・ 国木田独歩 「初恋」
・・・という綽名のあるルブツォフは、辱められた晴やかさに満ちて、ゴーリキイに思い深げに叫ぶのであった。「俺の可愛い錐。お前の考えはよ、正しい考えだ。だが、だあれもお前の云うこたあ、信じやしねえ。損だ……」「俺達んところで、モローゾフの工場でよ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫