・・・「しかし北海道にだって小作人に対してずっといい分割りを与えているところはたくさんありますよ」「それはあったとしたら帳簿を調べてみるがいい、きっと損をしているから」「農民をあんな惨めな状態におかなければ利益のないものなら、農場とい・・・ 有島武郎 「親子」
・・・ 声をかけたのは三十前後の、眼の鋭い、口髭の不似合な、長顔の男だった。農民の間で長顔の男を見るのは、豚の中で馬の顔を見るようなものだった。彼れの心は緊張しながらもその男の顔を珍らしげに見入らない訳には行かなかった。彼れは辞儀一つしなかっ・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ 彼らは民衆を基礎として最後の革命を起こしたと称しているけれども、ロシアにおける民衆の大多数なる農民は、その恩恵から除外され、もしくはその恩恵に対して風馬牛であるか、敵意を持ってさえいるように報告されている。真個の第四階級から発しない思・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・無智の農民の代弁となり、その生活を詩化することによって階級的侮辱から、また彼等を救わんとさえ試みたのである。 かくの如き、青年や、作家の行動を空想的にすぎぬと言ってしまうことができるであろうか? 行動は、即ち良心なりと信ずるかぎり、この・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・が、よしんば二人が要領のよい厚かましい兵隊であったところで、隊長の酒の肴を供出するような農民は昭和二十年の八月にはもういなかった。「こんなスカタンな、滅茶苦茶な戦争されて、一時間のちの命もわからんようなことにされながら、いくら兵隊さんに・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・三反か四反歩の、島特有の段々畠を耕作している農民もたくさんある。養鶏をしている者、養豚をしている者、鰯網をやっている者もある。複雑多岐でその生活を見ているだけでもなか/\面白い。このなかに身をひそめているのはひそめかたがあると思われるのであ・・・ 黒島伝治 「田舎から東京を見る」
・・・七分三分、あるいは六分四分に米麦を混合して常食としている農民は、平常から栄養摂取を十分にやっているわけだが、一年中食うだけの麦を持っている者も、組合から配給される平麦を買って、持っている麦があまるならそれは玄麦で売れというのである。誰れにも・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
農民の五月祭を書けという話である。 ところが、僕は、まだ、それを見たことがない。昨年、山陰地方で行われたという、××君の手紙である。それが、どういう風だったか、僕はよく知らない。 そこで困った。 全然知らんこと・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・ それから、百姓の中には、いまだに、自分が農民であるという観念に強くとらわれて、労働者は彼等と対立するかの如く思いこんでいる者が少くない。農民から立候補した者は、自分の味方であるが、労働者は、自分たちの利益を考えないものであるように思っ・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・そこで膝射の姿勢をとった。農民が逃げて、主人がなくなった黒い豚は、無心に、そこらの餌をあさっていた。彼等はそれをめがけて射撃した。 相手が×間でなく、必ずうてるときまっているものにむかって射撃するのは、実に気持のいゝことだった。こちらで・・・ 黒島伝治 「前哨」
出典:青空文庫