・・・もっとも近来は小学校などでも生徒に問題を出して日本の現代の人物中で誰が一番偉いかなどと聞く先生がある。この間私が或る地方へ行ったらある新聞でそういう問題を出して小学生徒から答案の投書を募っていました。その中で自分の叔父さんが一番偉いという答・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・両者は元来別物であって各独立したものであるというような説も或る意味から云えば真理ではあるが、近来の日本の文士のごとく根柢のある自信も思慮もなしに道徳は文芸に不必要であるかのごとく主張するのははなはだ世人を迷わせる盲者の盲論と云わなければなら・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・来た頃は留学中の或教授の留守居というのであったが、遂にここに留まることとなり、烏兎怱々いつしか二十年近くの年月を過すに至った。近来はしばしば、家庭の不幸に遇い、心身共に銷磨して、成すべきことも成さず、尽すべきことも尽さなかった。今日、諸君の・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・且つ近来、学校中で盗難事件はさらになかった。 下痢かなんかだろう。 安岡はそう思って、眠りを求めたが眠りは深谷が連れて出でもしたように、その部屋の空気から消えてしまった。 おそらく、二時間、あるいは三時間もたってから深谷は、すき・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・また、著述書の如きも、近来、世に大部の著書少なくして、ただその種類を増し、したがって発兌すれば、したがって近浅の書多しとは、人のあまねく知るところなるが、その原因とて他にあらず、学者にして幽窓に沈思するのいとまを得ざるがためなり。 けだ・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・(余輩もとより市学校に入らざる者を見て悉皆これを門閥守旧の人というに非ず。近来は市校の他に学校も多ければ、子弟のために適当の場所を選ぶは全く父母の心に存することにして、これがため、敢てその人物を軽重下等士族の輩が上士に対して不平を抱く由縁は・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・ このほか鳴雪、四方太、紅緑、等諸氏の句については近来見る処が少ないのでわざと評を省いて置く。〔『ホトトギス』第五巻第八号 明治35・5・20 二〕 正岡子規 「病牀苦語」
・・・ この死によって私は、殊に近来夫婦関係というような事に就いていろいろの事を考えて来ましたが、私共の機械的な日常生活の中に、こんな深遠な境地が係らわっていることか、と深く深く胸を撲たれました。そうして有島さんの最近の作物「二つの心」などを・・・ 宮本百合子 「有島さんの死について」
・・・、どうしても、一方には責任を負わないことをそのたのしさとして求めている両性の遊びがあり、まともな結婚の対象ということになると、それらの友達の間からではなく、もっと保守な面から選ばれるという奇妙な現象が近来増して来ているように思える。特に男の・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・これは著者の人格的生活における近来の進境を物語るものにほかならぬ。そうしてそのことを我々はこの書の内容において具体的に見いだすことができるのである。 著者はこの書の序文において、「悠々たる観の世界」を持つことの喜びを語っている。この書は・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
出典:青空文庫