・・・ですから夫婦仲の好かった事は、元より云うまでもないでしょうが、殊に私が可笑しいと同時に妬ましいような気がしたのは、あれほど冷静な学者肌の三浦が、結婚後は近状を報告する手紙の中でも、ほとんど別人のような快活さを示すようになった事でした。「・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・彼は絶えず手紙を書いては彼の近状を報告してよこした。しかし彼のいないことは多少僕にはもの足らなかった。僕はKと会う度に必ず彼の噂をした。Kも、――Kは彼に友情よりもほとんど科学的興味に近いある興味を感じていた。「あいつはどう考えても、永・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・――夫がマルセイユに上陸中、何人かの同僚と一しょに、あるカッフェへ行っていると、突然日本人の赤帽が一人、卓子の側へ歩み寄って、馴々しく近状を尋ねかけた。勿論マルセイユの往来に、日本人の赤帽なぞが、徘徊しているべき理窟はない。が、夫はどう云う・・・ 芥川竜之介 「妙な話」
・・・ 余が某氏の言に疑を挟むのは、自分に最も密接の関係のある文壇の近状に徴して、決してそうではあるまいとの自信があるからである。政府は今日までわが文芸に対して何らの保護を与えていない。むしろ干渉のみを事とした形迹がある。それにもかかわらず、・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
出典:青空文庫