・・・しかし、これがために、今日、近距離を行くにさへたる、境遇について、不平を言い、抗議することを知らない。いつも受動的であり、どんなとこにでも甘んじなければならぬ。それを考うる時、四六時中警笛におびやかされ、塵埃を呼吸しつゝある彼等に対して、涙・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・ 実際の空間におけるわれわれの視像の立体感はどこから来るかというに、目から一メートル程度の近距離ではいわゆる双眼視によるステレオ効果が有効であるが、もっと遠くなるとこの効果は薄くなり、レンズの焦点を合わせる調節のほうが有効になって来る。・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・第三にはフィルムの毎秒のコマ数によっておのずから規定された速度の制約を無視して、快速な運動を近距離から写した場面が多い。そういうところはただ目まぐるしいだけで印象が空疎になるばかりでなくむしろ不快の刺激しか与えない。これはフィルムの上におけ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・なるほど自分の面前の近距離で吹き立てられるとかなり勇ましく、やかましいくらい勇ましい。しかし木枯らし吹く夕暮れなどに遠くから風に送られて来るラッパの声は妙に哀愁をおびて聞こえるものである。 勇ましいということの裏には本来いつでも哀れなさ・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
出典:青空文庫