・・・ 三度が三度同じ返答で、紹巴は「ウヘー」と引退った。なるほどこの公の歩くさきには旋風が立っているばかりではなく、言葉の前にも旋風が立っていた。 源氏物語にも言辞事物の注のほかに深き観念あるを説いて止観の説という。この公の源語の注の孟・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ 全然二人の予期した返答は無かったが、ここに至って、此の紛れ入り者は、何の様な者かということが朧気に解って来た。しかし自分達が何様扱われるかは更に測り知られぬので、二人は畏服の念の増すに連れ、愈々底の無い恐怖に陥った。 男はおもむろ・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・それゆえ、さあ、とか、あるいは、とか、頗るいい加減な返答をして堪えていたがおしまいには、それもめんどうくさく、めちゃめちゃになって As you see など、英語が飛び出したりして、もう一刻も早く、おわかれしたくなって来た。そのうちに、と・・・ 太宰治 「花燭」
・・・ この奇異なる手紙を受け取った某作家は、むざんにも無学無思想の男であったが、次の如き返答を与えた。 拝復。気取った苦悩ですね。僕は、あまり同情してはいないんですよ。十指の指差すところ、十目の見るところの、いかなる弁明も成立し・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・ この返答で聴衆が笑い出したと伝えられている。この討論は到底相撲にならないで終結したらしい。 今年は米国へ招かれて講演に行った。その帰りに英国でも講演をやった。その当時の彼の地の新聞は彼の風采と講演ぶりを次のように伝えている。「・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・そうだという返答をたしかめてから後に悠々と卓布一杯に散々楽書をし散らして、そうして苦い顔をしているオーバーを残してゆるゆる引上げたという話もある。 ドイツだとこれほど簡単に数字的に始末の出来る事が、我が駒込辺ではそう簡単でないようである・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・とまあ恁云う返答だ。うん、然うだったか。それなら何も心配することはねい。どんな大将だって初めは皆な少尉候補生から仕上げて行くんだから、その点は一向差閊えない。十分やって行けるようにするからと云うんで、世帯道具や何や彼や大将の方から悉皆持ち込・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・しが頼みもせぬのに、その心やすい名医何某博士を訪い、今日普通に行われている避姙の方法につき、その実行が間断なく二、三十年の久しきに渉っても、男子の健康に障害を来すような事がないものか否かを質問し、その返答を伝えてくれたことがあった。山人は誠・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・婆さんも余から何か聞くのが怖しく、余は婆さんから何か聞くのが怖しいので御互にどうかしたかと問い掛けながら、その返答は両方とも云わずに双方とも暫時睨み合っている。「水が――水が垂れます」これは婆さんの注意である。なるほど充分に雨を含んだ外・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・の上から坂の下まで辛うじて乗り終せる男なり、遠乗の二字を承って心安からず思いしが、掛直を云うことが第二の天性とまで進化せる二十世紀の今日、この点にかけては一人前に通用する人物なれば、如才なく下のごとく返答をした「さよう遠乗というほどの事もま・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
出典:青空文庫