・・・ と叫んで追い払います。 それから、妻は、まずい事を仕出かしました。突然お金を、そのおかみさんに握らせようとしたのです。たちまち、 ま! いや! いいえ! さ! どう! などと、殆んど言葉にも何もなっていない・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・恐怖を追い払い追い払い、無理に、荒んだ身振りで、また一寸、ここは、いったいどこだろう、なんの物音もない。そのような、無限に静寂な、真暗闇に、笠井さんは、いた。 進まなければならぬ。何もわかっていなくても絶えず、一寸でも、五分でも、身を動・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・知識人がよしんばそれに対立するとしても、そのことで自己を保っていた支柱を数年前に失ってから、生活と文学とに何かを求めつつそれを追い払いつつ転々して来た跡は、文学の上に明瞭に見て来たところである。 何々文学には満足出来ず、さりとて理念と行・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫