・・・それが高い帆柱の真上まで来てしばらく挂っているかと思うと、いつの間にか大きな船を追い越して、先へ行ってしまう。そうして、しまいには焼火箸のようにじゅっといってまた波の底に沈んで行く。そのたんびに蒼い波が遠くの向うで、蘇枋の色に沸き返る。する・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・ ソヴェト農村の社会主義的な集団化は、農民の現実を大きく変化させ、急テンポで農民作家の階級的認識を追い越しつつある。 五ヵ年計画は、農民作家に重大な任務を授けた。それは、昔の封建的で個人主義的農民気質と生活の型が、あらゆる農村生活の・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 俺をもう追い越している。飛行機を造る力を自分の中に感じてやがる。 父さんは、無骨な手でミーチャの頭を撫で、 ――ふんばって、せっせと親爺を追いぬけよ。いいか! そして、俺ら世界のプロレタリアート、ソヴェトの文化を、持ち上げるんだ。・・・ 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
・・・ ある日ゴーリキイがペテルブルグの数多い橋の一つを歩いていると、理髪屋風の男が二人づれでゴーリキイを追い越して行った。が、一人の方がびっくりしたように小声で仲間に云った。「見ろ、ゴーリキイだぜ!」 もう一人の男は立ちどまってゴー・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・或る日ゴーリキイがペテルブルグ市中の或る橋を歩いていると、理髪屋風の二人連の男がゴーリキイを追い越して行った、が、その一人の方がびっくりしたように伴れに小声で云った。「見ろ! ゴーリキイだぜ」 もう一人の男は立ち止ってゴーリキイの頭・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・しかし驚くべき事は三十歳の青年が自然主義の初期にすでにゾラを追い越しモウパッサンの先を歩いていたことである。題目とねらい所は両者ほとんど同じで、構図さえも似かよっているが、ゾラの百ページを費やす所は彼の筆によればわずかに二三十ページで済む。・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫