・・・ 小林多喜二の文学者としての活動が、どんなに当時の人々から高く評価され、愛されていたかということは、殺された小林多喜二の遺骸が杉並にあった住居へ運ばれてからの通夜の晩、集った人たちの種類から見ても分った。彼の作品を熱心によんでいた労働者・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
・・・ 祖母は、水に棲む貝で例えれば蜆のような人であった。若し蜆が真珠を抱くものとすれば、それは私に対して持ってくれた一粒の愛だ。 通夜は賑やかであった。私は眠れず、二晩起き通した。人々は、種々雑談した。自分も仲間に成って話しながら、そこ・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・小林多喜二が築地署で拷問虐殺された。通夜の晩に小林宅を訪問して杉並署に連れてゆかれたが、その晩はもう小林の家から何人かの婦人が検束されて来ていて、入れる場所がないということで帰された。〔『大衆の友』号外〕小林多喜二特輯号を編輯した。・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ この気持は母の通夜をする時からあった。何か耳新しい一つ話か思い出話が出るかと思って、心臓に氷嚢をあてながらも寝ないで柱にもたれ、明け方までいろいろな人に混っていたのであったが、誰もそんな話を切り出すひとは誰もなかった。母が二十代の時分・・・ 宮本百合子 「母」
・・・ 父が亡くなって通夜の晩、妹が、今お姉様とても読む気がしないかもしれないけど、お父様がお姉様にあげるんだって病院でお書きになった詩があるのよ、と云った。父はその英語の詩を書いてどうせ私に読めないだろうから、そこに使ってある字へ皆すじを引・・・ 宮本百合子 「わが父」
出典:青空文庫