・・・頻りと新らしき家庭遊技などを輸入するものは、国民品性の特色を備えた、在来の此茶の湯の遊技を閑却して居るは如何なる訳であろうか、余りに複雑で余りに理想が高過ぎるにも依るであろうけれど、今日上流社会の最も通弊とする所は、才智の欠乏にあらず学問の・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・この通弊は単に画のみの問題でなく、また独り日本ばかりの問題でもない。総ての公平な判断や真実の批評は常に民族的因襲や国民的偏見に累わされない外国人から聞かされる。就中、芸術の真価が外国人の批評で確定される場合の多いは啻に日本の錦絵ばかりではな・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・独り他人を軽侮し冷笑するのみならず、この東洋文人を一串する通弊に自ずから襯染していた自家の文学的態度をも危ぶみかつ飽足らず思うて而して「文学には必ず遊戯的分子がある、文学ではドウシテモ死身になれない」という。近代思想を十分理解しながら近代人・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・これは日本支那の通弊サ、数学的観念が発達しない人間は馬鹿馬鹿しい事を考えるものだよ。論理学なんぞは学ぶに足らないのサ、数学で沢山サ。イイカネ、「物は或勢力より追やらるる時は螺線的にすすむ」というのが真理だよ、この真理を君に実例で示そうか。吹・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・もう一つ、この男の、芸術家の通弊として避けられぬ弱点、すなわち好奇心、言葉を換えて言えば、誰も知らぬものを知ろうという虚栄、その珍らしいものを見事に表現してやろうという功名心、そんなものが、この男を、ふらふら此の決闘の現場まで引きずり込んで・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・また下書きなどをしてその上を綺麗に塗りつぶす月並なやり方の通弊を脱し得る所以であるまいか。本当の意味の書家が例えば十の字を書く時に始め一を左から右へ引き通す際に後から来るの事など考えるだろうか、それを考えれば書の魂は抜けはしまいか。たとえ胴・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・の材料、比較をするだけの頭、纏めるだけの根気がないために、すなわち門外漢であるがために、どうしても角度を知ることができないために、上下とか優劣とか持ち合せの定規で間に合せたくなるのは今申す通り門外漢の通弊でありますが、私の見るところでは豈独・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・古法古言を盲信して万世不易の天道と認め、却て造化の原則を知らず時勢の変遷を知らざるは、古学者流の通弊にこそあれ。人智の進歩は盲信を許さゞるなり。古人が女子を床の下に臥さしめて男天女地の差別を示したるは古人の発意にして、其意は以て人間万世の法・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・封建の制度、すでに廃して、士族無経済の気風、なお学生の中に存するは、今日天下の通弊なり。これすなわち余が本塾の学生諸氏に向い、余が経歴にならわずして、よく今日の時勢に応じ、成学即身実業の人たらんことを勧告するゆえんなり。・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
出典:青空文庫