・・・そんな連中が、飲食店に内地米の稲荷ずしでも売っているのを見つけようものなら、忽ち売切れとなってしまうのである。 そこで宿屋や、飲食店の商売繁栄策としても内地米が目標となる。 こんなのは、昨年の旱魃にいためつけられた地方だけかと思って・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・こういう連中は全く盲人というでもなく、さればといって高慢税を進んで沢山納め奉るほどの金も意気もないので、得て中有に迷った亡者のようになる。ところが書画骨董に心を寄せたり手を出したりする者の大多数はこの連中で、仕方がないからこの連中の内で聡明・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・「二年も前に入っている三・一五の連中さえまだ公判になっていないんだから、順押しに行くと随分長くなるぜ。」 俺はその時、フト硝子戸越しに、汚い空地の隅ッこにほこりをかぶっている、広い葉を持った名の知れない草を見ていた。四方の建物が高い・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・明るい深い緑葉の反射は千曲川の見える座敷に満ちて、そこに集った湯上りの連中の顔にまで映った。一年に二度ずつ黄色くなる欄の外の眺めは緑に調和して画のように見えた。先生は茶を入れて皆なを款待しながら、青田の時分に聞える非常に沢山な蛙の声、夕方に・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・わたしパリイにいた時、婚礼をした連中が料理店に這入っていたのを見たことがあるのよ。お嫁さんは腰を掛けて滑稽雑誌を見ている。お婿さんと立会人とで球を突いているというわけさ。婚礼の晩がこんな風では、行末どうなるだろうと思ったの。よくまあ、お婿さ・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・おとなしく皆で出し合って支払って帰る連中もありますが、大谷に払わせろ、おれたちは五百円生活をしているんだ、と言って怒る人もあります。怒られても私は、いいえ、大谷さんの借金が、いままでいくらになっているかご存じですか? もしあなたたちが、その・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・ チルナウエルの旅程が遠くなればなる程、跡に残っている連中の悪口はひどくなる。もう幾月か立ったので、なんに附けても悪く言う。葉書が来ない。そりゃ高慢になった。来た。そりゃ見せびらかす。チルナウエルの身になっては、どうして好いか分からない・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・電車に乗っていた連中が総立ちになる。二人はおれを追い掛けに飛んで下りる。一人は車掌に談判する。今二人は運転手に談判する。車の屋根に乗っている連中は、蝙蝠傘や帽やハンケチを振っておれを呼ぶ。反対の方角から来た電車も留まって、その中でも大騒ぎが・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・血気な連中のうちの一人の江戸っ子が、「それじゃインキがどれだけ多くついてもやはり同じ事か」と聞いた。そうだという返答をたしかめてから後に悠々と卓布一杯に散々楽書をし散らして、そうして苦い顔をしているオーバーを残してゆるゆる引上げたという話も・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・ ××大将は戦地へ出向く連中から、電報を御覧になって引還してお出でになって、私もその時お目にかかったがね。広い書院は勲章や金モールの方で一杯だ。そこへ私にも出ろと仰ゃって下さるんだけれど、何ぼ何でも状が状だから出る訳に行きゃしねえ。・・・ 徳田秋声 「躯」
出典:青空文庫