・・・酔に任せ起って躍りいたるに突然水の面を見入りつ、お政々々と連呼してそのまま顛落せるなりという。 記者去年帰省して旧友の小学校教員に会う、この日記は彼の手に秘蔵されいたるなり。馬島に哀れなる少女あり大河の死後四月にして児を生む、これ大河が・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ と大声で叫び、さらにまた、どろぼう! どろぼう! どろぼう! と喚き続け、私は狼狽して、いやちがう、おれだよ、おれだよ、と言っても聞きわけてくれず、どろぼう! どろぼう! どろぼう! と連呼し、やがて、ジャンジャンジャンというまことに異様・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ と連呼した。 娘はまだ十間ほど行ったばかりだから、むろんこの声は耳に入ったのであるが、今すれ違った大男に声をかけられるとは思わぬので、振り返りもせずに、友達の娘と肩を並べて静かに語りながら歩いていく。朝日が美しく野の農夫の鋤の刃に・・・ 田山花袋 「少女病」
出典:青空文庫