・・・結城以後影を隠した徳用・堅削を再出して僅かに連絡を保たしめるほかには少しも本文に連鎖の無い独立した武勇談である。第九輯巻二十九の巻初に馬琴が特にこの京都の物語の決して無用にあらざるを強弁するは当時既に無用論があったものと見える。一体、親兵衛・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・孫の成長とともにすっかり老いこみ耄碌していた金助が、お君に五十銭貰い、孫の手を引っぱって千日前の楽天地へ都築文男一派の新派連鎖劇を見に行った帰り、日本橋一丁目の交叉点で恵美須町行きの電車に敷かれたのだった。救助網に撥ね飛ばされて危うく助かっ・・・ 織田作之助 「雨」
・・・それはなにか均衡のとれない不自然な連鎖であった。そんなことは起りはしなかったと否定するものがあれば自分も信じてしまいそうな気がした。 自分、自分の意識というもの、そして世界というものが、焦点を外れて泳ぎ出して行くような気持に自分は捕らえ・・・ 梶井基次郎 「路上」
・・・前者では因果の連鎖が一筋の糸でつづいているが、後者では因果の中間に蓋然の霧がかかっている。それで、前者では練習さえ積めばかなりの程度までは思いのままにあらゆる有様を再現することが出来るが、後者の方では二度と同じ結果を出すまでに何度試みを繰返・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・付け方であっていわゆる、においとか響きとか位とかおもかげとかいう東洋的な暗示的な言葉で現わされているのであるが、これらは畢竟いずれも二つの連接句のおのおのに付属した二つの潜在的心像がいかなる形において連鎖を作るかというその様式の分類にほかな・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 論理の連鎖のただ一つの輪をも取り失わないように、また混乱の中に部分と全体との関係を見失わないようにするためには、正確でかつ緻密な頭脳を要する。紛糾した可能性の岐路に立ったときに、取るべき道を誤らないためには前途を見透す内察と直観の力を・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・そうして凡庸な探偵はいつも見当ちがいの所へばかり目をつけて、肝心な罪人を取り逃がしている、その間に名探偵は、いろいろなデマやカムフラージに迷わされず、確実な実証の連鎖をじりじりとたぐって、運命の神自身のように一歩一歩目的に迫進するのである。・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・この減摩油の効力を規定する因子としての oiliness は、ある学者の説では炭水素連鎖の屈撓性、あるいは連鎖が界面に横臥しうる性質と関連しているとのことであるが、現在の場合でも連鎖が屈伸自在であればあるほど、金属の molecular な・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・それらの暗示のどれでも追求して行くとほとんど無限な思索の連鎖をたぐり寄せる事ができた。そしてそれらの考えがほとんど天啓ででもあるように強く明らかに、無条件に真であって、しかもいずれもが新しい卓見ででもあるように彼には思われた。新聞の三面記事・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・数学のような論理的な連鎖を追究する場合ですらも、漠然とした予想の霧の中から正しい真を抽出するには、やはりとぎすました解剖刀のねらいすました早わざが必要であろう。居眠りしながら歩いていたのでは国道でも田んぼへ落ちることなしに目的地へは行かれま・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
出典:青空文庫