・・・ しかしこの映画はまたまさにそういう点から見て、未来の音映画の進化の径路を暗示するものと思われる。この映画の傾向を次第に発展させて行けば結局は日本固有の俳諧連句を視覚化したようなものに近づいて行くであろうと思う。私は日本の一流の映画家、・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・ 人間の文化が進むにつれて、文学も進化しなければならないはずである。すべての世間の科学的常識が進んで行く世の中に文学だけが過去の無知を保守しなければならないという理由はどうにも考えられない。人間の文学が人間の進歩に取り残されてはいたし方・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・これはしかし、修練による人間そのものの進化によって救われないものであろうか、要するに観測器械としての感官を生理的心理的効果の係蹄から解放することが、ここに予想される総合的実験科学への歩みを進めるために通過すべき第一関門であろうと思われる。・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・銀座の商店の改良と銀座の街の敷石とは、将来如何なる進化の道によって、浴衣に兵児帯をしめた夕凉の人の姿と、唐傘に高足駄を穿いた通行人との調和を取るに至るであろうか。交詢社の広間に行くと、希臘風の人物を描いた「神の森」の壁画の下に、五ツ紋の紳士・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・ 凡物にして進化の経程を有せざるはない。市井の風俗を観察する方法にも同じく進化の道がある。江戸時代に在っては山東京伝は吉原妓楼の風俗の家毎に差別のあった事を仔細に観察して数種の蒟蒻本を著した。傾城買四十八手傾城※入ル。洋風ノ酒肆ニシテ、・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・う事のいかなるものなるかをさえ解し得ざる男なり、ただ一種の曲解せられたる意味をもって坂の上から坂の下まで辛うじて乗り終せる男なり、遠乗の二字を承って心安からず思いしが、掛直を云うことが第二の天性とまで進化せる二十世紀の今日、この点にかけては・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・またどういう時世にはどんな職業が自然の進化の原則として出て来るものである。と一々明細に説明してやって、例えば東京市の地図が牛込区とか小石川区とか何区とかハッキリ分ってるように、職業の分化発展の意味も区域も盛衰も一目の下に暸然会得できるような・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・例えば進化論とか、勢力保存とか云うとその言葉自身が必要であるばかりでなく、実際の事実の上において役に立っています。けれども悪くすると前申した子供や門外漢と同じように、内容にあまり合わない形式を拵えてただ表面上の纏りで満足している事が往々ある・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・なぜ連続するかは哲学的にまたは進化的に説明がつくにしても、つかぬにしても連続するのはたしかであるから、これを事実として歩を進めて行く。 そこでちょっと留まって、この講話の冒頭を顧みると少々妙であります。最初には私と云うものがあると申しま・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・「世の中の事は乱雑で法則がないようですがよく御覧になると皆進化の道理に支配されております……進化……分りますか」。まるで赤ん坊に説教するようだ。向は親切に言ってくれるんだから、へーへーと云っているより仕方がない。それはこの婆さんのようにベラ・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
出典:青空文庫