・・・もし誤って無思慮にも自分の埓を越えて、差し出たことをするならば、その人は純粋なるべき思想の世界を、不必要なる差し出口をもって混濁し、なんらかの意味において実際上の事の進捗をも阻礙するの結果になるだろう」と。この立場からして私は何といっても、・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・男子が年と共に前額部の禿げ上るのは当り前の事で、少しも異とするに及ばぬけれど、大隅君のは、他の学友に較べて目立って進捗が早かった。そうしてそれが、やがて大隅君のあの鬱然たる風格の要因にさえなった様子であったが、思いやりの深い山田勇吉君は、或・・・ 太宰治 「佳日」
・・・しあわせな事には世の中では論理的の証明はわりに要求されないで、オーソリティの証言が代用されそのおかげで物事が渋滞なく進捗するのであろう。 自画像をかきながら思うようにかけない苦しまぎれに、ずいぶんいろんな事を考えたものである。それを・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・の生成は皺襞と対立さるべきものでやはり一種の不安定によって定まるものであろうが、このほうの研究はまだきわめて進捗していない。理論的に言えば、破壊の起こる直前までの過程についてはプラスティックな物体の力学からある程度まではこぎつけられるが、ほ・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・はこういう順序で進捗して行ったのであった。この教程は今考えてみると偶然とは言いながら実によくできていたと思う。この教程の内容を今ここで分析するとすれば、おそらく数十枚の原稿紙を要するであろう。 それはとにかく、子供の時代に受けたいろいろ・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・この種の研究は平円盤の発明によって非常な進捗を遂げた事はいうまでもない。蝋管記録の寿命はせいぜい千回ぐらいであるのに平円盤の原型の寿命はほとんど永久であると言ってもよい。それでたとえば現在のある国語の発音を記録しておいて百年千年万年の後のも・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・この測夫の熟練のいかんによって観測作業の進捗が支配されるのである。ある時向こうの山頂の回照器がいつまで待っても光を送らない。信号をしても返事がない。行って見ると櫓から落ちて死んでいた。深山にただ一人だから行って見るまでわからなかったし、死因・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・三囲の堤に架せられべき鉄橋の工事も去年あたりから、大に進捗したようである。世の噂をきくに、隅田川の沿岸は向島のみならず浅草花川戸の岸もやがて公園になされるとかいう事である。思うに紐育市ハドソン河畔の公園に似て非なるが如きものが、ここに経営せ・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ところが、五ヵ年計画が四年で完成される程のテンポで進捗するにつれ、企業内の生産手段は電化その他で高まり、平均労働時間がグッと減った。現在、ソヴェト同盟に千三百六十八万四千人の勤労者が活動している。そのうち、半数はもう七時間労働でやっている。・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ 五ヵ年計画が、巨大な困難と闘いながら進捗するにつれて、ソヴェトの芸術全線が、実際上の必要から、はっきり生産の場所へ結びつけられて来た。 例えば、ゴーリキーの生れたニージュニ・ノヴゴロド市について見よう。一九二七年、このヴォルガ河に・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫