・・・男の児が一人いて、なにか荒い遊びをしているらしかった。 勝子が男の児に倒された。起きたところをまた倒された。今度はぎゅうぎゅう押えつけられている。 いったい何をしているのだろう。なんだかひどいことをする。そう思って峻は目をとめた。・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・部屋へと二人は別れ際に、どうぞチトお遊びにおいで下され。退屈で困りまする。と布袋殿は言葉を残しぬ。ぜひ私の方へも、と辰弥も挨拶に後れず軽く腰を屈めつ。 かくして辰弥は布袋の名の三好善平なることを知りぬ。娘は末の子の光代とて、秘蔵のものな・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・かの君、大磯に一泊して明日は鎌倉まで引っ返しかしこにて両三日遊びたき願いに候えど――。われ、そは御楽しみの事なるべし、大磯鎌倉は始めてのお越しにや。かの君さりげなく、妹には始めての遊びになん。ああこの時、わが目と二郎の目とは電のごとく貴嬢が・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・ その年転じて叡山に遊び、ここを中心として南都、高野、天王寺、園城寺等京畿諸山諸寺を巡って、各宗の奥義を研学すること十余年、つぶさに思索と体験とをつんで知恵のふくらみ、充実するのを待って、三十二歳の三月清澄山に帰った。 かくて智恵と・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・女郎の写真を彼が大事がっているのを冷笑しているのだが、上等兵も街へ遊びに出て、実物の女の顔を知っていることを思うと、彼はいゝ気がしなかった。女を好きになるということは、悪いことでも、恥ずべきことでもない。兵卒で、取調べを受ける場合に立つと、・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ごく懇意でありまたごく近くである同じ谷中の夫の同僚の中村の家を訪い、その細君に立話しをして、中村に吾家へ遊びに来てもらうことを請うたのである。中村の細君は、何、あなた、ご心配になるようなことではございますまい、何でもかえってお喜びになるよう・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・ ――入っていって、「遊びに来た」と言う。その時相手がいかにも落着いた態度で出てきたら、手にペンでも持って出てきたら、その時こそ惨めな自分が面と面を突きあわすことを露骨に感ぜさせられるだろう。それにはかなわない。 ――上りになってい・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・差向いの置炬燵トント逆上まするとからかわれてそのころは嬉しくたまたまかけちがえば互いの名を右や左や灰へ曲書き一里を千里と帰ったあくる夜千里を一里とまた出て来て顔合わせればそれで気が済む雛さま事罪のない遊びと歌川の内儀からが評判したりしがある・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・植木坂の下あたりには、きまりでそのへんの門のわきに立ち話する次郎の旧い遊び友だちを見いだす。ある若者は青山師範へ。ある若者は海軍兵学校へ。七年の月日は私の子供を変えたばかりでなく、子供の友だちをも変えた。 居住者として町をながめるのもそ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・鯨もすっかり出て来て、樽を一つずつひろって、それをまりにして、大よろこびで遊びました。 船は、それから、どん/\どん/\どこまでも走って、しまいに世界のはての陸地へつきました。 ウイリイは船から上ると、百だいの車へ、百樽の肉とパンと・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
出典:青空文庫