・・・私にはたんにそれが女学校などで遊戯として習得した以上に、何か特別に習練を積んだものではないかと思われたほどに、それほどみごとなものであった。Tもさすがに呆気に取られたさまで、ぼんやり見やっていたが、敗けん気を出して浪子夫人のあとから鎖につか・・・ 葛西善蔵 「遊動円木」
・・・それが遊戯になってしまった。しまいには彼が「松仙閣」といっているのに、勝子の方では知らずに「朝鮮閣」と言っている。信子がそれに気がついて笑い出した。笑われると勝子は冠を曲げてしまった。「勝子」今度は義兄の番だ。「ちがいますともわらび・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・習慣の上に立つ遊戯的研究の上に前提を置きたくない。「ヤレ月の光が美だとか花の夕が何だとか、星の夜は何だとか、要するに滔々たる詩人の文字は、あれは道楽です。彼等は決して本物を見てはいない、まぼろしを見ているのです、習慣の眼が作るところのま・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・結婚前には心を張り、体を清くして、美しい恋愛に用意していなければならぬ。自分の妻を、子どもの母をきめんための恋愛だからだ。結婚前に遊戯恋愛や、情事をつみ重ねようとすることは実に不潔な、神聖感の欠けた心理といわねばならぬ。不潔なもの、散文的な・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・実際大噐晩成先生の在学態度は、その同窓間の無邪気な、言い換れば低級でかつ無意味な飲食の交際や、活溌な、言い換れば青年的勇気の漏洩に過ぎぬ運動遊戯の交際に外れることを除けば、何人にも非難さるべきところのない立派なものであった。で、自然と同窓生・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・あれは、お手本のあねさまの絵の上に、薄い紙を載せ、震えながら鉛筆で透き写しをしているような、全く滑稽な幼い遊戯であります。一つとして見るべきものがありません。雰囲気の醸成を企図する事は、やはり自涜であります。「チエホフ的に」などと少しでも意・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・私はやっぱり阿呆みたいに、時流にうとい様子の、謂わば「遊戯文学」を書いている。私は、「ぶん」を知っている。私は、矮小の市民である。時流に対して、なんの号令も、できないのである。さすがにそれが、ときどき侘びしくふらと家を出て、石を蹴り蹴り路を・・・ 太宰治 「鴎」
・・・腕白な遊戯などから遠ざかった独りぼっちの子供の内省的な傾向がここにも認められる。 後年まで彼につきまとったユダヤ人に対するショーヴィニズムの迫害は、もうこの頃から彼の幼い心に小さな波風を立て初めたらしい。そしてその不正義に対する反抗心が・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・それで子供にステッキを持たせて遊戯のような実験をやらせれば、よくよく子供の頭が釘付けでない限り、問題はひとりでに解けて行く。塔に攀じ上らないでその高さを測り得たという事は子供心に嬉しかろう。その喜びの中には相似三角形に関する測量的認識の歓喜・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・といっているに至っては、文字上の遊戯もまた驚くべきではないか。しかし自分は近頃十九世紀の最も正直なる告白の詩人だといわれたポオル・ヴェルレエヌの詳伝を読み、Les sanglots longsDes violons De l・・・ 永井荷風 「夏の町」
出典:青空文庫