・・・寧ろ地上に遍満した我我の愚昧に依ったのである。哂うべき、――しかし壮厳な我我の愚昧に依ったのである。 修身 道徳は便宜の異名である。「左側通行」と似たものである。 * 道徳の与えたる恩恵は時間と労力との節約・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・十方に遍満した俊寛どもが、皆ただ一人流されたように、泣きつ喚きつしていると思えば、涙の中にも笑わずにはいられぬ。有王。三界一心と知った上は、何よりもまず笑う事を学べ。笑う事を学ぶためには、まず増長慢を捨てねばならぬ。世尊の御出世は我々衆生に・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・それをことごとく神聖がるのは世界に遍満したセンティメンタリズムである。「お嬢さんはおいくつですか?」 宣教師は微笑を含んだ眼に少女の顔を覗きこんだ。少女はもう膝の上に毛糸の玉を転がしたなり、さも一かど編めるように二本の編み棒を動かし・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・ 破していわく、汝提宇子、この段を説く事、ひとえに自縄自縛なり、まず DS はいつくにも充ち満ちて在ますと云うは、真如法性本分の天地に充塞し、六合に遍満したる理を、聞きはつり云うかと覚えたり。似たる事は似たれども、是なる事は未だ是ならず・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
出典:青空文庫