・・・その中でもまたおもしろかったのは道化た西洋の無頼漢が二人、化けもの屋敷に泊まる場面である。彼らの一人は相手の名前をいつもカリフラと称していた。僕はいまだに花キャベツを食うたびに必ずこの「カリフラ」を思い出すのである。 二四 ・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・ましてやその他の月卿雲客、上臈貴嬪らは肥満の松風村雨や、痩身の夷大黒や、渋紙面のベニスの商人や、顔を赤く彩ったドミノの道化役者や、七福神や六歌仙や、神主や坊主や赤ゲットや、思い思いの異装に趣向を凝らして開闢以来の大有頂天を極めた。 この・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ 下等な道化に独りで腹を立てていた先ほどの自分が、ちょっと滑稽だったと彼は思った。 舞台の上では印度人が、看板画そっくりの雰囲気のなかで、口から盛んに火を吹いていた。それには怪しげな美しささえ見えた。 やっと済むと幕が下りた。・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・せっぱつまった道化である。これが廃人としての唯一のつとめか。かれは、そのような状態に墜ちても、なお、何かの「ため」を捨て切れなかった。私の身のうちに、まだ、どこか食えるところがあるならば、どうか勝手に食って下さい、と寝ころんでいる。食えると・・・ 太宰治 「花燭」
・・・のがれて都を出ましたというのも、私の苦しまぎれのお道化でした。態度が甚だふざけています。だいいち、あの女流作家に対して失礼です。けれども私は今、出鱈目を言わずには居られません。 あなたから長いお手紙をいただき、ただ、こいつあいかんという・・・ 太宰治 「風の便り」
あなたは文藝春秋九月号に私への悪口を書いて居られる。「前略。――なるほど、道化の華の方が作者の生活や文学観を一杯に盛っているが、私見によれば、作者目下の生活に厭な雲ありて、才能の素直に発せざる憾みあった。」 おたがいに・・・ 太宰治 「川端康成へ」
・・・二、三の評論家に嘘の神様、道化の達人と、あるいはまともの尊敬を以て、あるいは軽い戯れの心を以て呼ばれていた、作家、笠井一の絶筆は、なんと、履歴書の下書であった。私の眼に狂いはない。かれの生涯の念願は、「人らしい人になりたい」という一事であっ・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・君の文学は、猿面冠者のお道化に過ぎんではないか。僕は、いつも思っていることだ。君は、せいぜい一人の貴族に過ぎない。けれども、僕は王者を自ら意識しているのだ。僕は自分より位の低いものから、訳のわからない手紙を貰ったくらいにしか感じなかった。僕・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・心にもない道化でも言っていなけれや、生きて行けないんだ。」大人びた、誠実のこもった声であった。私は思わず振り向いて、少年の顔を見直した。「それは、誰の事を言っているんだ。」 少年は、不機嫌に顔をしかめて、「僕の事じゃないか。僕は・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・少しも自惚れてはいないのだけれども、一座を華やかにする為に、犠牲心を発揮して、道化役を演じてくれたのかも知れない。東北人のユウモアは、とかく、トンチンカンである。 そのように、快活で愛嬌のよい戸石君に比べると、三田君は地味であった。その・・・ 太宰治 「散華」
出典:青空文庫