・・・而してそれが道徳の根源となる。国家主義と単なる民族主義とを混同してはならない。私の世界的世界形成主義と云うのは、国家主義とか民族主義とか云うものに反するものではない。世界的世界形成には民族が根柢とならなければならない。而してそれが世界的世界・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・彼等の中で、比較的忠実に読んだ人さへが、単なる英雄主義者として、反キリストや反道徳の痛快なヒーローとして、単純な感激性で崇拝して居たこと、あたかも大正期の文壇でトルストイやドストイェフスキイやを、単なる救世軍の大将として、白樺派の人々が崇拝・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・お前の道徳だ。だからお前にとってはそうであるより外に仕方のない運命なんだ。 犬は犬の道徳を守る。気に入ったようにやっていく。お前もやってのけろ! お前はその立派な、見かけの体躯をもって、その大きな轢殺車を曵いていく! 未成年者や・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・曾て東京に一士人あり、頗る西洋の文明を悦び、一切万事改進進歩を気取りながら、其実は支那台の西洋鍍金にして、殊に道徳の一段に至りては常に周公孔子を云々して、子女の教訓に小学又は女大学等の主義を唱え、家法最も厳重にして親子相接するにも賓客の如く・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・つまり東洋の儒教的感化と、露文学やら西洋哲学やらの感化とが結合って、それに社会主義の影響もあって、ここに私の道徳的の中心観念、即ち俯仰天地に愧じざる「正直」が形づくられたのだ。 併しこれは思想上の事だ。これが文学的労作と関係のある点はど・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・しかもけっして既成の疲れた宗教や、道徳の残滓を、色あせた仮面によって純真な心意の所有者たちに欺き与えんとするものではない。二 これらは新しい、よりよい世界の構成材料を提供しようとはする。けれどもそれは全く、作者に未知な絶えざる驚異に値す・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・ 婦人の道徳の頽廃が歎かれている。しかし、これとても、一方では、食物につながった社会問題なのである。婦人の労働問題の合理的な解決が必要である一方に、食糧事情の民主的解決が緊急事となって来ている。 そのために、各種の現存の機構、組合に・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・その尊敬の情は熱烈ではないが、澄み切った、純潔な感情なのだ。道徳だってそうだ。義務が事実として証拠立てられるものでないと云うことだけ分かって、怪物扱い、幽霊扱いにするイブセンの芝居なんぞを見る度に、僕は憤懣に堪えない。破壊は免るべからざる破・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・煙は道徳に従うよりも、風に従う。花壇の花は終日濛々として曇って来た。煙は花壇の上から蠅を追い散らした勢力よりも、更に数倍の力をもって、直接腐った肺臓を攻撃した。患者たちは咳き始めた。彼らの一回の咳は、一日の静養を掠奪する。病舎は硝子戸で金網・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・対象になったのは道徳的の無知無反省と教養の欠乏とのために、自分のしている恐ろしい悪事に気づかない人でした。彼は自分の手である人間を腐敗させておきながら、自分の罪の結果をその人のせいにして、ただその人のみを責めました。彼は物的価値以外を知らな・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫