・・・ここでおあがりになるのなら、かまわないのですが、お持ちになるのは違法なんですよ、と女中さんは当惑そうな顔をしていた。ビフテキの、ほの温い包みを持って家へ帰る。この楽しさも、ことしはじめて知らされた。私はいままで、家に手土産をぶらさげて帰るな・・・ 太宰治 「新郎」
・・・証拠物件に蝋管蓄音機が持出されたのに対して検事が違法だと咎めると、弁護士がすぐ「前例」を持出すのや、裁判長のロードの少々勘の悪いところなどが如何にもイギリスらしくて、いつものアメリカの裁判所の場面と変った空気を出しているようである。 ど・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・想うに蕪村は誤字違法などは顧みざりしも、俳句を練る上においては小心翼々として一字いやしくもせざりしがごとし、古来文学者のなすところを見るに、多くは玉石混淆せり、なすところ多ければ巧拙両つながらいよいよ多きを見る。杜工部集のごときこれなり。蕪・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・このような封建的な思想を違法とするいくつかの法律がきめられたが、少女たちも親たちもそれを知らない。知っていても、よく理解していない。今年の新卒業生が有害な制度の犠牲になるのを防ぐために、と職業安定法、労働基準法などの箇条を説明していられます・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・告発文の違法や非真実性は、人間の衝動の中にあとづけられたのではなかったろうと思う。 思えば不思議なことである。現代文学は、衝動という言葉に、理性のやみがたい抵抗と、その行為までを、包括しようとしているのだろうか。 伊藤整が、「美とい・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
出典:青空文庫