・・・西洋では詩人や小説家の国務大臣や商売人は一向珍らしくないが、日本では詩人や小説家では頭から対手にされないで、国務大臣は魯か代議士にだって選出される事は覚束ない。こういう国に二葉亭の生れたのは不運だった。 小説家としても『浮雲』は時勢に先・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・みんな巧いので、選出するのに困難です。四十余篇、全部の書き出しを、いま、ここに並べてみたいほどです。けれども、それよりは、諸君が鴎外全集を買うなり、または私のように、よそから借りるなりして親しくお読みになれば、それは、ちゃんとお判りになるこ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・何故に縊死の形式を選出したのか。スタヴロギンの真似ではなかった。いや、ひょっとすると、そうかも知れない。自殺の虫の感染は、黒死病の三倍くらいに確実で、その波紋のひろがりは、王宮のスキャンダルの囁きよりも十倍くらい速かった。縄に石鹸を塗りつけ・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・その時の当主ジョン・ストラットは Maldon からの M. P. として選出された。この人の長子は早世し、次男の Joseph Halden Struttが家を継いだ。彼は陸軍大佐となり王党の国会議員となり、Duke of Leinste・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・共栄圏と云うものであっても、その中心となる民族が、国際連盟に於ての如く、抽象的に選出せられるのでなく、歴史的に形成せられるのでなければならない。斯くして真の共栄圏と云うものが成立するのである。併し自己自身の中に真の世界性を含まない単に自己の・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・軍が平壌を包囲した時、彼は決死隊勇士の一人に選出された。「中隊長殿! 誓って責務を遂行します。」 と、漢語調の軍隊言葉で、如何にも日本軍人らしく、彼は勇ましい返事をした。そして先頭に進んで行き、敵の守備兵が固めている、玄武門に近づい・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・組合の中で婦人部と青年部とはよく調和して活動できるけれども、大人の男子組合員とは役員の選出の点でも、議題を出す分量でも、いろいろなことで女の人がまだまだ不満をもった状態におかれているところがある。そして、そういう職場の気分は巧に傭主につかま・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・今年、はじめて選挙権を与えられた第二次大戦後のフランス婦人たちは三十二名の婦人代議士を選出し、なかに十七名の共産党代議士があった。そして、日本は、三十九名の婦人代議士を当選させて中に一名の共産党代議士を出しているのである。 この、歴史的・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・その政党の議員の或るものはタフト・ハートレー法を通過させ、黒人に市民権を与えることについて反対しつつあるその民主党選出の大統領となるためには、トルーマンもウォーレスが正当に主張した、人民の意志を代表する民主的綱領にいくらか近づかなければなら・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・こんにち揺がない大出版企業の代表者たちが、文化上どのような性質をもつ存在であるかということは、渡米ラッシュの各界代表選出にさいして、出版界だけが人選にゆき悩んでいる実状に語られている。 一九四九年度の文学現象の特質は、このつくられた恐慌・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
出典:青空文庫