・・・ 測量を始める前にはまず第一に三角点の位置を選定する選点作業が必要である。深山の峰から峰と一つ一つ登って行ってはそこから百キロ以内の他の高峰との見透しを調べて歩くのである。一点を決定するのに平均二週間はかかる。そうして三角点の配布が決定・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・ 家を建てようと思う人が自分の素人設計図を見せてまずい所を直してもらったり、ちょっとした器械でも買う場合に目的を話して適当なものを選定してもらわれれば好都合である。メロンを作ってみたいと思う人が自分の畑の適否を相談し、栽培法の要領を教わ・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・我等の為し得るところは、精々のところ他人の製作した者の中から、あの額縁この表紙を選定し指定するに過ぎない。しかもその選定や指定すら、多くの困難なる事情の下に到底満足には行かないのである。されば芸術品の表装は、我等の作品の一部分であるにかかは・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・出入りの俥夫が知り合いで、その家を選定してくれたのであった。 陽子、弟の忠一、ふき子、三日ばかりして、どやどや下見に行った。大通りから一寸入った左側で、硝子が四枚入口に立っている仕舞屋であった。土間からいきなり四畳、唐紙で区切られた六畳・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・ 特別にこの夜のために脚本が選定されるということはない。平常から各劇場の上演目録は特別の統制機関によって選ばれている。 いつもその時ソヴェトの全勤労者がおかれている社会的情勢、細かく云えば党と職業組合との決定した線にそうて新らしい脚・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・ 野戦病院へ着くや否や、放射線室として一つの部屋を選定する。あらゆる部分品を組立てる。隣室には現像液が用意される。運転手に合図してダイナモが動き始める。マリアが姿を現わして後三十分でこれらの事が運ばれた。それから暗い部屋に外科医と一緒に・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・演劇は上演目録の計画的選定で上演されている。文学作品の生産ばかりは、個々の作家の勝手で行われて来た。めいめいの作家が、てんでの思いつきでつかまえた題材で書きたいときに書いていた。果して、それでいいものかどうか? ラップはこういう問題を提起し・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・った学説、日本文学の発展・変化の内外諸関係を支配し、そして、支配しつづけて今日に及んでいる何かの法則を発見するべき段になって、現在、国文学研究者自身が、その法則を把握するに先ず必要な学者としての立場の選定について、大なる困難、撞着、対立に置・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・例えば、或る女学生が、私を三十円で買って下さいという手紙を誰に当てて書いたかといえば、その相手としては外ならぬ会社の重役を選定したという事実の裡に、今日の社会の実物教育が娘たちの心の中に、どんなことを思いつかせる可能を日夜植えつけているかと・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・文化賞の対象の選定にあたって、「老舗」ののれんが物をいう反民主性に屈伏することであるのに、おどろかずにはいられまいと思う。「同人雑誌」でさえあればそれが新しい文学の温床なのではなくて、旧来の文壇気質やジャーナリズムの現代文学の空虚さにあ・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
出典:青空文庫