・・・ 板倉周防守、同式部、同佐渡守、酒井左衛門尉、松平右近将監等の一族縁者が、遠慮を仰せつかったのは云うまでもない。そのほか、越中守を見捨てて逃げた黒木閑斎は、扶持を召上げられた上、追放になった。 ―――――――――――・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・ ――逢いに来た――と報知を聞いて、同じ牛込、北町の友達の家から、番傘を傾け傾け、雪を凌いで帰る途中も、その婦を思うと、鎖した町家の隙間洩る、仄な燈火よりも颯と濃い緋の色を、酒井の屋敷の森越に、ちらちらと浮いつ沈みつ、幻のように視たので・・・ 泉鏡花 「第二菎蒻本」
・・・黒川弥太郎、酒井米子、花井蘭子などの芝居であった。翌る朝、思い出して、また泣いたというのは、流石に、この映画一つだけである。どうせ、批評家に言わせると、大愚作なのだろうが、私は前後不覚に泣いたのである。あれは、よかった。なんという監督の作品・・・ 太宰治 「弱者の糧」
・・・一朝、生活にことやぶれ、万事窮したる揚句の果には、耳をつんざく音と共に、わが身は、酒井真人と同じく、「文芸放談」。どころか、「文芸糞談」。という雑誌を身の生業として、石にかじりついても、生きのびて行くやも知れぬ。秀才、はざま貫一、勉学を廃止・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・一番目は「酒井の太鼓」で、栄升の左衛門、雷蔵の善三郎と家康、蝶昇の茶坊主と馬場、高麗三郎の鳥居、芝三松の梅ヶ枝などが重立ったものであった。道具の汚いのと、役者の絶句と、演芸中に舞台裏で大道具の釘を打つ音が台辞を邪魔することなぞは、他では余り・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
┌細君、小枝 │七歳の伸一┌富井行雄┤四つの健吉│ │百姓 与田初五郎│ └ 酒井「五兵衛さん」│石田重吉┐直次 つや子└ ひろ子└進三〔欄外に〕・・・ 宮本百合子 「「播州平野」創作メモ」
・・・ 酒井とその宿主の婆との衝突、エルゼという人物などはそういう作者の見とおしで扱われている。コンムニストでも決して善玉揃いではない。「何しろ沢山の党員だし、古い歴史をもった党だからタマには蛆虫も湧くんさ。南京虫はどこにでもいる。」 コ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
播磨国飾東郡姫路の城主酒井雅楽頭忠実の上邸は、江戸城の大手向左角にあった。そこの金部屋には、いつも侍が二人ずつ泊ることになっていた。然るに天保四年癸巳の歳十二月二十六日の卯の刻過の事である。当年五十五歳になる、大金奉行山本・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫