・・・支那の古俗では、身分のある死者の口中には玉を含ませて葬ることもあるのだから、酷い奴は冢中の宝物から、骸骨の口の中の玉まで引ぱり出して奪うことも敢てしようとしたこともあろう。いけんあたりとか聞いたが、今でも百姓が冬の農暇になると、鋤鍬を用意し・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・実際また、いま日本の谷川に棲息している二尺か二尺五寸くらいの山椒魚でも、くらいついたり何かすると酷いそうです。鋭い歯はありませんけれども何せ力が強うございますから、人間の指の一本や二本は、わけなく食いちぎるそうで、どうも、いやになります。そ・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。ああ。我慢ならない。生かして置けねえ。 はい、はい。落ちついて申し上げます。あの人を、生かして置いてはなりません。世の中の仇です・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・』『私何したッても、何様酷い目に会っても、兄さんに御目に掛ってよ。』『私もそうよ。久振りで御目に掛るんですもの。』『あらいやだ。』 若子さんは頓興に大きな声で、斯うお云いでしたから、何かと思うと、また学生がつい其処に立って居・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・ 調べられるとき、酷い目にでも合わされて、苦しまぎれに夢中でそうだとでも云ったら、どうすればいいのか。 訴え、恐ろしい訴え――それも自分の方には何の強みもなさそうに思われた訴え――が、すぐ目前に迫っていることを思った禰宜様宮田は、も・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・納めるものを納めないで自由な暮しをして居るかと思えばそうでもなく、甚助の家よりもっと酷いと云う話を聞いて居る。 行って見た事もないから、どうしてそんな事になるのか分りもしないけれ共、毎日毎日働いて居るのに取れる筈の米の取れないのは私達で・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 婦人代議士はインフレーションを防ぐためにまだ力がありませんし、総ての家庭が苦しんでいる酷い税の問題についても、総ての婦人は自分たちの政治力がその改善のために発揮されていないことを知っています。日本女性は真面目に自分たちの社会的能力の低・・・ 宮本百合子 「平和を保つため」
・・・ ゴーリキイにはこれらの人々が「善人なのか、悪人なのか、平和好きなのか、悪戯好きなのか、又どうしてこんなに酷い、飽くことない意地悪なのか、どうしてこう意久地なくおとなしいのか」分らない。そして、この如何にもおとなしく、見るも気の毒な程素・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・「ね、おかあさま、酷いのよ。新らしい、ちゃんと作ってある畑をわざと滅茶滅茶に踏こくったり、ガワガワ樹の皮を剥いたりするんですもの、僕驚いちゃったや「ああああ其那ことをする者はね、決して立派な子じゃあないよ「此の水毒じゃあないのお・・・ 宮本百合子 「われらの家」
・・・「ほんとにあいつは酷い奴やぞ、わざわざ母屋へ頼って来てるのに、俺とこへ連れて来て、何ぼ何でもあんまりや!」「わしとこにいりゃええわして。」「阿呆ぬかせ!」と秋三は裏口から叫んで這入って来た。「秋公、お前、ひどすぎるやないか。・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫