・・・きらなければ作品として生み出さない画家、決してただ与えられた刺戟に素早く反応して自分の空想に亢奮したままに作画してゆくような素質の芸術家ではなかったこと、これはケーテにとって最も貴重な特質の一つである重厚さであった。 六枚つづきの「織匠・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・私もここに野暮にして重厚な真心をもって、×××氏がカレントに、小粒ながら真実深き評言を正面に人生に向って投げられるように希望する。〔一九二七年二月〕 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・で作者森山氏は主題の更に重厚な展開のために、主人公のような社会層のインテリゲンツィアと家族関係との奥に潜められている心理的因子を主人公の側からとらえ、掘り下げる必要があったことを心付かずにいた。そのことを伊藤氏も全く見落していられた。「幽鬼・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
・・・そして、この切実な苦しみの原因は、過去の組合活動がはげしい動きをもちながら経済主義の傾向ばかりがつよかったために、たたかいの経験を階級的人間としての成長の実感にまで重厚にみのらすことが出来なかった点と、職場の文学愛好者が文学に対してゆく心も・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・色とりどり実にふんだんな卓上の盛花、隅の食器棚の上に並べられた支那焼花瓶、左右の大聯。重厚で色彩が豊富すぎる其食堂に坐った者とては、初め私達二人の女ぎりであった。人間でないものが多すぎる。其故、花や陶器の放つ色彩が、圧迫的に曇天の正午を生活・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・然し何と重厚に自然は季節を踏んで行くことだろう。先月二十七日に来た時、東公園と呼ばれる一帯の丘陵はまだ薄すり赤みを帯びた一面の茶色で、枯木まじりに一本、コブシが咲いていた。その白い花の色が遠目に立った。やがて桜が咲いて散り、石崖の横に立つ何・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・ああここにはこういう生活がある、とその生活の姿に芸術の心をつかまれてグルリ、グルリと執拗にカメラの眼玉を転廻させ、その対象となる人々も、さて、これが我々の生活だ、どうぞ、と腰を据えている重厚さは、まだまだああいう場面に滲み出して来ていない。・・・ 宮本百合子 「「保姆」の印象」
・・・蓮花の茎が入り乱れて抽でている下に鷺を配したところも凡手でなく、一種重厚な、美を貫く生の凄さに似たものさえ、その時代のついた画面から漂って来るのだ。 その絵から私は強い印象を受け、こうやって書いていても、黝んだ蓮の折れ葉の下に戦ぐ鷺・・・ 宮本百合子 「蓮花図」
・・・ 執拗な熱のある筆触、変化の多い濃淡、重厚な正面からの写実、――そういうものが日本画に望めるかどうか、それをかつて自分は問題にした。川端氏は黄熟せる麦畑の写実によってそれの可能を実証してくれた。昨年の『慈悲光礼讃』に比べれば、その観照の・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫