・・・唯都々一は三味線に撥を打付けてコリャサイなど囃立つるが故に野鄙に聞ゆれども、三十一文字も三味線に合してコリャサイの調子に唄えば矢張り野鄙なる可し。古歌必ずしも崇拝するに足らず。都々一も然り。長唄、清元も然り。都て是れ坊主の読むお経の文句を聞・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・あたかも東洋の美術に心酔する者が西洋の美術をもってことごとく野卑なりとして貶するがごとし。艶麗、活溌、奇警なるものの野卑に陥りやすきはもとよりしかり。しかれども野卑に陥りやすきをもって野卑ならざるものをも棄つるはその弁別の明なきがゆえなり。・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・間に、田舎万歳の野卑な懸合話をしたり、頭を扇ではたき合ったりするが、愈々本気で水芸にかかると、たかみの見物をしているなほ子までおのずとその気合に引き入れられる程、巧に、真面目にやった。気のない見物を当てにせず、芸当を自分でやってその出来栄え・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・非常に古代美術愛好家風な、衒学的な、却ってそれが一種の野卑を感じさせる婦人の美の説明が我々を間誤つかせていると思うと、それはいつしか十九世紀のブルジョア勃興期にフランスで、そしてイギリスでも所謂下層階級の出身の美しい娘がどんな道行で没落に瀕・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・最早絶えることない特種の野卑な醜聞は、嘲弄者に潤沢な機会を与える。大都市の街路は夜毎に世界の他の何処にも又と見られないような展覧会を示して居る。これら総てのことあるに反して、普通の英国人は自分の国の徳義上の優越を授けられたものと考える。そし・・・ 宮本百合子 「無題(四)」
・・・そして、動物の生殖について、野卑な説明を与え、むきだしに自分たちの興味を示した。書生がいるとき、子供によくわからないけれども何かを意味するいろいろの話が、子供のいるときでもされた。留守番をするながい時間、子供はそういう荒っぽい空気のなかにい・・・ 宮本百合子 「私の青春時代」
・・・ 相手の人格が頑固野卑である場合には、誤解を解くことはますますむずかしい。耶蘇でさえそれを解き得なかった。 私は群集の誤解を恐れてはならない。そして誤解を解くための焦燥などは絶対にしてはいけない。たやすく群集に理解されることは危険で・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫