・・・無念骨髄に徹して歯を咬み拳を握る幾月日、互に義に集まる鉄石の心、固く結びてはかりごとを通じ力を合せ、時を得て風を巻き雲を起し、若君尚慶殿を守立てて、天翔くる竜の威を示さん存念、其企も既に熟して、其時もはや昨今に逼った。サ、かく大事を明かした・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・モーゼは、けれども決して絶望しなかったのです。鉄石の義心は、びくともせず、之を叱咤し統御し、ついに約束の自由の土地まで引き連れて来ました。モーゼは、ピスガの丘の頂きに登って、ヨルダン河の流域を指差し、あれこそは君等の美しい故郷だ、と教えて、・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・試みにこれを歴史に徴するに、義気凜然として威武も屈する能わず富貴も誘う能わず、自ら私権を保護して鉄石の如くなる士人は、その家に居るや必ず優しくして情に厚き人物ならざるはなし。即ち戸外の義士は家内の好主人たるの実を見るべし。いかなる場合にも放・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫