・・・車道が人道に接する所には、水道の鉛管がはみ出していた。それが青白くされさびて、あがった鰻を思わせるような無気味な肌をさらしてうねっていた。 富豪の邸宅の跡には美しい壁画が立派に保存されていた。それには狩猟や魚族を主題としたものもあった。・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・われわれが験潮器を浜に据えて、鉛管を海中へ引っぱっていたので、何か水雷でもしかけているという噂をされたそうである。 この浜の便所はおそらく世界一の広々とした明るい便所で、二人並んで、ゆるゆる談じながら用を達すことが出来るしかけである。そ・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・これが地下電線の被覆鉛管をかじって穴を明けるので、そこから湿気が侵入して絶縁が悪くなり送電の故障を起こすのだそうである。実に不都合な虫であるが、怒ってみたところで相手が虫では仕方がない。怒る代りに研究をして防禦法を講じる外はないであろう。・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・流しの鉛管をつまらせる事は日本人の特長であるらしい。 看護婦が手押車に手術器械薬品をのせたのを押して行く。西日が窓越しに看護婦の白衣と車の上のニッケルに直射する。見る目が痛い。手術される人はそれがなお痛いことであろう。 病院で手術し・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
出典:青空文庫