・・・やはり人造でもマーブルか、乳色ガラスのテーブルの上に銀器が光っていて、一輪のカーネーションでもにおっていて、そうしてビュッフェにも銀とガラスが星空のようにきらめき、夏なら電扇が頭上にうなり、冬ならストーヴがほのかにほてっていなければ正常のコ・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・『新ライン新聞』の名誉とケルン市における友人の名誉を救うために、カールはイエニーの銀器類までを含めて一切の財産を売った。イエニーは手紙の中に書いた。「三人の子供と四番目の子供の誕生。それが何を意味するかを知るためにはあなたは此処ロンドン・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ お茶のテーブルに花をまき、クリームを銀器で出すという風。 長尾半兵衛の息、ケイオーに七八年居、いつ卒業するかあてのない男と婚約。――自分が引まわせる気のよい男という条件で。長尾の地所が二十万円でうれたら結婚する。それまで娘早稲田に・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 太陽のよくさす部分は銀器を日向で見る様にこまかい五色の色の分るのが有るのさえわかる。 紺青の色も濃くうすく青味勝った所もさほどでない所もある。 銀と紺青といかにもすっきりした取合わせの下に黄金色に輝いて微笑むぶなの木の群がつづ・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・「私の驚くほど奇麗だと思うもの―― 月の光の中の雪とオパアルと日向で見る銀器と。 篤は行きつまった様に千世子の方を見て笑った。「ええ、ええ、そうです、 ほんとうにそんなものの中に生きて居るのはほんとうに奇麗なもん・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・そして、貧しき母の為の産院寄附金募集には上流貴婦人連が各自家重代の銀器を持ち出して華々しい展覧会を開催するというグロテスクな皮肉に亢奮させられてはいけない。英国人は「与え而して取る」という人生根本原則が顛覆しない限り、あらゆる人生の美、醜に・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫