・・・――今朝も潜水夫のごときしたたかな扮装して、宿を出た銃猟家を四五人も見たものを。 遠くに、黒い島の浮いたように、脱ぎすてた外套を、葉越に、枝越に透して見つけて、「浪路さん――姉さん――」と、昔の恋に、声がくもった。――姿を見失ったその人・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・「ああ、銃猟に――鴫かい、鴨かい。」「はあ、鴫も鴨も居ますんですが、おもに鷭をお撃ちになります。――この間おいでになりました時などは、お二人で鷭が、一百二三十も取れましてね、猟袋に一杯、七つも持ってお帰りになりましたんですよ。このま・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・ と訊くから、そういうのが、慌てる銃猟家だの、魔のさした猟師に、峰越しの笹原から狙い撃ちに二つ弾丸を食らうんです。……場所と言い……時刻と言い……昔から、夜待ち、あけ方の鳥あみには、魔がさして、怪しいことがあると言うが、まったくそれは魔がさ・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ 七十ばかりな主の翁は若き男女のために、自分がこの地を銃猟禁制地に許可を得し事柄や、池の歴史、さては鴨猟の事など話し聞かせた。その中には面白き話もあった。「水鳥のたぐいにも操というものがあると見えまして、雌なり雄なりが一つとられます・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・いるのはちょっと人目を側立たせたし、また他の一人の鍔無しの平たい毛織帽子に、鼠甲斐絹のパッチで尻端折、薄いノメリの駒下駄穿きという姿も、妙な洒落からであって、後輩の自分が枯草色の半毛織の猟服――その頃銃猟をしていたので――のポケットに肩から・・・ 幸田露伴 「野道」
出典:青空文庫