・・・これがためにたとえば鵞鳥の声から店の鎧戸の音へ移るような音のオーバーラップは映像のそれよりも容易でありまた効果的でありうる。のみならずいろいろな雑音はその音源の印象が不判明であるがために、その喚起する連想の周囲には簡単に名状し記載することの・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・次には、とある店先のショーウィンドウの鎧戸が引き上げられる、その音のガーガーと鵞鳥のガーガーが交錯する。そうしてこの窓にヒロインの絵姿のビラがはってあるのである。これを彼の「モロッコ」の冒頭に出て来るアラビア人と驢馬のシーンに比べるとおもし・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・大商店のショウウィンドウにははげさびた鎧戸か、よごれた日除幕がおりている。死に物狂いの大晦日の露店の引き上げた跡の街路には、紙くずやら藁くずやら、あらゆるくずという限りのくず物がやけくそに一面に散らばって、それがおりからのからび切った木枯ら・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・やはり緑色ペンキ塗の大きい部屋の鎧戸は閉り、中庭に咲き盛っている躑躅の強烈な赤い反射が何処となくちらついているようだ。私は、必要な場所場所を探険して、戻った。Yは、明治十七八年頃渡来したまま帰るのを忘れた宣教師の応接間のような部屋で、至極安・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
松林、鎧戸を閉したヴィラの間を通って Hotel Hajek の庭 日覆の下の卓で昼餐。地酒の冷した白葡萄酒、鮎に似た魚、野鴨の雛、美味いライス、プディングをたべた。 小さい門、リラの茂、薄黄色模様の絹の布団、ジャケツ・・・ 宮本百合子 「無題(八)」
出典:青空文庫