・・・おそらく世界第一の火災国たる日本の消防がほとんど全く科学的素養に乏しい消防機関の手にゆだねられ、そうして、いちばん肝心な基礎科学はかえって無用の長物ででもあるように火事場からはいっさい疎外されているのである。 わが国で年々火災のために灰・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・また昔の日本の女になくてかなわなかった髪飾りや帯などは外国の女には無用の長物である。 新聞を必要とするように今のわれわれの生活を導いたものは新聞自身であるかもしれないとすると、新聞が必要がられるという事実だけでは決して新聞の本質的必要を・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・ている人足の機械的に動くのを見たり、船頭の女房が艫で菜の葉を刻んだり洗ったりするのを見たり、あるいは若芽を吹いた柳の風にゆらぐのを見たりしていると、丸善だとか三越だとかいうものが世にもつまらない無用の長物だという気がする時もある。 電車・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・こう論じてくると何だか学者は無用の長物のようにも見えるでしょうが私はけっしてそんな過激の説を抱いているものではありません。学者は無論有益のものであります。学者のやる統一、概括と云うものの御蔭で我々は日常どのくらい便宜を得ているか分りません。・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・弓矢鎗剣、今の軍器としては無用の長物、唯一種の玩具なれども、昔年は一本の鎗を以て三軍の成敗を決したることあり。昔は利器たり、今は玩具たり。今昔の相違これを名けて人智の進歩時勢の変遷と言う。学者の注意す可き所のものなり。左れば我輩は女大学を見・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・なぜなれば、神の選び給いし国王に耳殻が与えられていないのは、それが無用の長物であることの動かすべからざる証である。慈悲深い王は、我が愛する国民に、無用の長物を負担させて置くに忍びない。と書いてある。 自分の耳を切るのは厭だったので、総理・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫