・・・落ちている破片の量から見ると、どうもこの二本は両脇の二本よりだいぶ高かったらしい。門番に聞くと果してそうであった。 新築の市役所の前に青年団と見える一隊が整列して、誰かが訓示でもしているらしかったが、やがて一同わあっと歓声を揚げてトラッ・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・この門番は旧来足軽の職分たりしを、要路の者の考に、足軽は煩務にして徒士は無事なるゆえ、これを代用すべしといい、この考と、また一方には上士と下士との分界をなお明にして下士の首を押えんとの考を交え、その実はこれがため費用を省くにもあらず、武備を・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・そういう声で、おゆきは赤門の門番をしている夫の浅吉のことを、あっさん、あっさんと云って話した。あっさんがね、お前さん、こういうんだよ、いけすかないったらありゃしないじゃないか、ねえ、などと笑いながら、ついて来た女中と喋っているおゆきの話しか・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ 作家キルションは、工場内の熟練労働者は勿論のこと、門番、のんだくれて同志裁判にかけられた労働者とまで知り合いなはずだ。生産の技術についても、ズブの素人以上の知識をもっているであろう。職場内の一般的気分、五ヵ年計画につれて発生し複雑に発・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・養源寺へ行ったとき、子供たちが一番によるのは、左手にある門番のところだった。どっさり手桶が重ねてあった。せまい土間に、赤い紙を巻いた線香と、水にさしたしきみやその季節の花がすこしあって、一緒に行った大人が、お線香やしきみを、そこで買った。そ・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・坂路の登り口に門番があり、爺さんが居る。これも、永山氏の御好意による名刺を通じると、爺さん「日本のお方か、西洋のお方か、どちらへあげるね」と訊く。どちらでもよいように永山氏はただ大浦天主堂御中という指名にされてある。私丁寧に答える。・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・ 初めの三行目から作者は自分の言葉で服装について一部のパリ人の抱いている常識を非難しながら、その男がやっととある玄関の前で馬車を下りると、もう直ぐそこでとびかかるようにパリの門番の本性について説明する。引つづいて読者はひどく精密であるが・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・「いい門番さんがいるのねえ、おばあさんとこ」 せきは、長火鉢の縁で煙管をはたき、大人の女でもみるような風に六つの孫娘をじろりと見た。「おかしな子ったらないのさ、異人さん異人さんって大騒ぎさ。もうちっと大きかったらとんだ苦労だ」・・・ 宮本百合子 「街」
・・・ 現場に落ちていた刀は、二三日前作事の方に勤めていた五瀬某が、詰所に掛けて置いたのを盗まれた品であった。門番を調べてみれば、卯刻過に表小使亀蔵と云うものが、急用のお使だと云って通用門を出たと云うことである。亀蔵は神田久右衛門町代地の仲間・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ ようよう西奉行所にたどりついて見れば、門がまだ締まっていた。門番所の窓の下に行って、いちが「もしもし」とたびたび繰り返して呼んだ。 しばらくして窓の戸があいて、そこへ四十格好の男の顔がのぞいた。「やかましい。なんだ。」「お奉行・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫