・・・ 城の門も、中の方々の戸も、すっかり明け放してありました。 四 ウイリイは犬を外に待たせておいて、大きな部屋をいくつも通りぬけて、一ばん奥の部屋にはいりますと、そこに、金色をした鳥が一ぴき、すやすやと眠ってい・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・お風呂場に電燈をつけて、着物を脱ぎ、窓を一ぱいに開け放してから、ひっそりお風呂にひたる。珊瑚樹の青い葉が窓から覗いていて、一枚一枚の葉が、電燈の光を受けて、強く輝いている。空には星がキラキラ。なんど見直しても、キラキラ。仰向いたまま、うっと・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・ たとえば野獣も盗賊もない国で、安心して野天や明け放しの家で寝ると、風邪を引いて腹をこわすかもしれない。○を押さえると△があばれだす。天然の設計による平衡を乱す前には、よほどよく考えてかからないと危険なものである。・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・ たとえば野獣も盗賊もない国で安心して野天や明け放しの家で寝ると風邪をひいて腹をこわすかもしれない。○を押えると△があばれだす。天然の設計による平衡を乱す前にはよほどよく考えてかからないと危険なものである。 十一 毛ぎら・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・前記の浴室より、もう少し左上に当たる崖の上に貸し別荘があって、その明け放した座敷の電燈が急に点火するときにそれをこっちのベランダで見ると、時によっては、一道の光帯が有限な速度で横に流出するように見えることがある。これはたぶんまつ毛のためやま・・・ 寺田寅彦 「人魂の一つの場合」
・・・ある夜荒物屋の裏を通ったら、雨戸を明け放して明るい座敷が見える。高く釣った蚊屋の中にしょんぼり坐っているのは年とった主婦で、乱れた髪に鉢巻をして重い病苦に悩むらしい。亭主はその傍に坐って背でも撫でているけはいである。蚊屋の裾には黒猫が顔を洗・・・ 寺田寅彦 「やもり物語」
・・・色な面を打守りていかなる変化が余の眉目の間に現るるかを検査する役目を務める、御役目御苦労の至りだ、この二婆さんの呵責に逢てより以来、余が猜疑心はますます深くなり、余が継子根性は日に日に増長し、ついには明け放しの門戸を閉鎖して我黄色な顔をいよ・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・折から暑さに向う時節であったから縁側は常に明け放したままであった。縁側は固より棟いっぱい細長く続いている。けれども患者が縁端へ出て互を見透す不都合を避けるため、わざと二部屋毎に開き戸を設けて御互の関とした。それは板の上へ細い桟を十文字に渡し・・・ 夏目漱石 「変な音」
・・・善吉はすでに廊下に見えず、かなたの吉里の室の障子が明け放してあった。「早くお臥みなさいまし。お寒うございますよ」と、吉里の室に入ッて来たお熊は、次の間に立ッたまま上の間へ進みにくそうに見えた善吉へ言った。 上の間の唐紙は明放しにして・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・いつか窓がすっかり明け放してあったので豚は寒くて耐らなかった。 こんな工合にヨークシャイヤは一日思いに沈みながら三日を夢のように送る。 四日目に又畜産の、教師が助手とやって来た。ちらっと豚を一眼見て、手を振りながら助手に云う。「・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
出典:青空文庫