・・・ 私は、開巻第一頁に、三田君のあのお便りを、大きい活字で組んで載せてもらいたかったのである。あとの詩は、小さい活字だって構わない。それほど私はあのお便りの言々句々が好きなのである。 御元気ですか。 遠い空から御伺いします。 ・・・ 太宰治 「散華」
・・・考えてみると、うすら寒いアルバムですね。開巻、第一ペエジ、もう主人公はこのとおり高等学校の生徒だ。実に、唐突な第一ペエジです。 これはH高等学校の講堂だ。生徒が四十人ばかり、行儀よくならんでいるが、これは皆、私の同級生です。主任の教授が・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・ というのが開巻第一頁だ。どうも、自分の文章を自分で引用するというのは、グロテスクなもので、また、その自分の文章たるや、こうして書き写してみると、いかにも青臭く衒気満々のもののような気がして来て、全く、たまらないのであるが、そこがれいの・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・それがちょうど俳諧連句の句々の連珠のようなモンタージュによって次々に展開進行して行くのである。開巻第一に現われる風の草原の一シーンから実に世にも美しいものである。風にゆれる野の草がさながら炎のように揺れて前方の小高い丘の丸山のほうへなびいて・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
私が訳したファウストについては、私はあの訳本をして自ら語らしめる積でいる。それで現にあの印行本にも余計な事は一切書き添えなかった。開巻第一の所謂扉一枚の次に文芸委員会の文句が挿んであるが、あれも委員会からの注意を受けて、ようよう入れた・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫