・・・他生の縁あってここに集い、折も折、写真にうつされ、背負って生れた宿命にあやつられながら、しかも、おのれの運命開拓の手段を、あれこれと考えて歩いている。私には、この千に余る人々、誰ひとりをも笑うことが許されぬ。それぞれ、努めて居るにちがいない・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ 前衛映画 映画を演劇や文学から解放して映画的な映画の天地を開拓しようとして起こされたいろいろの運動の試みがいわゆる前衛映画である。「アヴァンギァルドとは金にならぬ映画を作る人たちの仲間を言う」と揶揄した人がある。従・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・それでたとえば昔、広重や歌麿が日本の風土と人間を描写したような独創的な見地から日本人とその生活にふさわしい映画の新天地を開拓し創造するような映画製作者の生まれるまでにはいったいまだどのくらいの歳月を待たなければならないか、今のところ全く未知・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ ただ、一番始末のいい場合は、学問の本山であるところの西洋の第一流の大家達の統括の下に開拓され発達させられた一つの明確な区劃内に限られた部門の中で、かの地の誰やかれが既にかなりまでつつき廻した問題の一方面に若干の確実な貢献をしたというよ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・乙はアカデミックな科学の殿堂の細部の建設に貢献するには適しているが新しい科学の領土の開拓には適しない。丙は時として荊棘の小道のかなたに広大な沃野を発見する見込みがあるが、そのかわり不幸にして底なしの泥沼に足を踏み込んだり、思わぬ陥穽にはまっ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・疑って考えかつ自然について直接の師を求めた者にいたって始めて一新天地を開拓しているの観がある。 読書もとよりはなはだ必要である、ただ一を読んで十を疑い百を考うる事が必要である。人間の知識を一歩進めんとする者は現在の知識の境界線まで進むを・・・ 寺田寅彦 「知と疑い」
・・・絵を描くよりも、表現すべき自己を開拓する方の努力がもっと重大である。それがためには、しばらく絵筆をすてて物に親しむ事に多くの時を費やす必要がある。 海老原氏の変った絵がある。こういう種類の絵が、作者にどれほど必然であるか、が何時でも・・・ 寺田寅彦 「二科会展覧会雑感」
・・・堤上の桜花もまた水害の後は時勢の変遷するに従い、近郊の開拓せらるるにつれて次第に枯死し、大正の初に至っては三囲堤のあたりには纔に二、三の病樹を留むるばかりとなった。浜村蔵六が植桜之碑には堤上桜樹の生命は大抵人間と同じであるが故に絶えずこれが・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・固より新たに開拓する領土の事でありますから、御参考になるほどにはできておりません。けれども、あの議論の上へ上へとこれからの人が、新知識を積んで行って、私の疎漏なところを補い、誤謬のあるところを正して下さったならば、批評学が学問として未来に成・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ もしこの二種類の競争すなわち圏の内外に互に競争が同時に起るとすると、向後吾人の受くる作物は、この両個の刺激からして、在来のはますます在来の方向で深く発達したもの、新興のは新興の領分で出来得る限りを開拓して変化を添えるようなものになる。も・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
出典:青空文庫