・・・……まず、開通式といった日に、ここの村長――唯今でも存命で居ります――年を取ったのが、大勢と、村口に客の歓迎に出ておりました。県知事の一行が、真先に乗込んで見えた……あなた、その馬車――」 自動車の警笛に、繰返して、「馬車が、真正面・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・科学的発明も、化学工業も、鉄道敷設も、電信も道路の開通も、すべてが、資本主義の下にあっては、戦争準備の目標に向って集中されている。それは直接間接にプロレタリアの生活に重大な関係を持っている。反戦文学の恒常性はこゝに存在する。資本主義制度が存・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・「藤沢江の島間電車九月一日開通、衝突脱線等あり、負傷者数名を出す」という文句の脇に「藤沢停車場前角若松の二階より」とした実に下手な鉛筆のスケッチがある。 逗子養神亭から見た向う岸の低い木柵に凭れている若い女の後姿のスケッチがある。鍔・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・一度影を隠した銀座の柳は、去年の夏ごろからまた街頭にたおやかな緑の糸をたれたが、昔の夢の鉄道馬車の代わりにことしは地下鉄道が開通して、銀座はますます立体的に生長することであろう。百歳まで生きなくとも銀座アルプスの頂上に飛行機の着発所のできる・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・ 新しい交通機関、例えば地下鉄や高架線が開通すると、誰よりも先に乗ってみないと気のすまないという人がある。つい近ごろ、上野公園西郷銅像の踏んばった脚の下あたりの地下に停車場が出来て、そこから成田行、千葉行の電車が出るようになった。その開・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・ 室戸岬が日本何景かの一つになってから観光客が急に多くなり、今では、汽車こそまだ開通しないが、自動車や汽船で楽に日帰りが出来るそうである。その代りもう十一銭の宿泊料では覚束ないであろう。鯨取りもとうにもうノルウェー式か何かになってしまっ・・・ 寺田寅彦 「初旅」
・・・池の端仲町の池に臨んだ裏通も亦柳の並木の一株も残らず燬かれてしまった後、池と道路との間に在った溝渠は埋められて、新に広い街路が開通せられた。この溝渠には曾て月見橋とか雪見橋とか呼ばれた小さな橋が幾条もかけられていたのであるが、それ等旧時の光・・・ 永井荷風 「上野」
・・・これは荒川の河流が放水路の開通と共に、如何に険悪な天侯にも決して汎濫する恐れがなくなったためかとも思われる。吉原の遊廓外にあった日本堤の取崩されて平かな道路になったのも同じ理由からであろう。実例としては明治四十三年八月に起った水害の後、東京・・・ 永井荷風 「水のながれ」
・・・丹那が開通したからです。 ○鼠に顔の上を飛ばれた話。ゴトゴトいう。おや? 耳をたてていると机のある方からやって来てカサコソ枕元をかけている。シーッ! 力をこめておどかしたら、鼠はあんまりあわてて、おそらく鼻面を向けていた方へいきなり飛ん・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫