・・・ここで関守の男が来て「通行税」を一円とって還り路の切符を渡す。二十余年の昔、ヴェスヴィアスに登った時にも火口丘の上り口で「税」をとられた。その時はこの税の意味を考えたが遂に分からなかった。この峰の茶屋の税もやはり不思議な税の一つである。あと・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・一八の屋根に鶏鳴きて雨を帯びたる風山田に青く、車中には御殿場より乗りし爺が提げたる鈴虫なくなど、海抜幾百尺の静かさ淋しささま/″\に嬉しく、哀れを止むる馬士歌の箱根八里も山を貫き渓をかける汽車なれば関守の前に額地にすりつくる面倒もなければ煙・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・ 航空気象観測所と無線電信局とがまだ霜枯れの山上に相対立して航空時代の関守の役をつとめている。この辺の山の肌には伊豆地震の名残らしい地割れの痕がところどころにありありと見える。これを見ていると当時の地盤の揺れ方がおおよそどんなものであっ・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・これらや歌人の歌枕なるべきとて 関守のまねくやそれと来て見れば 尾花が末に風わたるなり 薄の句を得たり。 大方はすゝきなりけり秋の山 伊豆相模境もわかず花すゝき 二十余年前までは金紋さき箱の行列・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
出典:青空文庫