・・・ただ金を所有している人が、相当の徳義心をもって、それを道義上害のないように使いこなすよりほかに、人心の腐敗を防ぐ道はなくなってしまうのです。それで私は金力には必ず責任がついて廻らなければならないといいたくなります。自分は今これだけの富の所有・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・セコンドメイトの猫入らずを防ぐと同時に、私の欺され易いセンチメンタリズムを怒鳴りつけた。 倉庫は、街路に沿うて、並んで甲羅を乾していた。 未だ、人通りは余り無かった。新聞や牛乳の配達や、船員の朝帰りが、時々、私たちと行き違った。・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・平田、君が一方を防ぐんだ。吉里さんの方は僕が引き受けた。吉里さん、さア思うさま管を巻いておくれ」「ほほほ。あんなことを言ッて、また私をいじめようともッて。小万さん、お前加勢しておくれよ」「いやなことだ。私ゃ平田さんと仲よくして、おと・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・ 今消極の憂を憂てこれを防ぐにもせよ、積極の利を謀てこれを求るにもせよ、旧藩地にて有力なる人物は必ずこれを心配することならん、またこれを心配して実地に従事するについては様々の方便もあらん、また様々の差支もあらん、不如意は人生の常にしてこ・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・ 蛮夷が中華を乱だるも、聖人の道をもってこれを防ぐべし。すでにこれを乱だりてこれを押領したるうえは、また、聖人の道をもってこれを守るべし。敵のためにも可なり、味方のためにも可なり。その働くべき部分の内にありて自由に働をたくましゅうし、輿・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・国の安全を保ち、他の軽侮を防ぐためには、欠くべからざるものなり。 およそ世の中に仕事の種類多しといえども、国の政事を取扱うほど難きものはなし。骨折る者はその報を取るべき天の道なれば、仕事の難きほど報も大なるはずなり。ゆえに政府の下にいて・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・かれ攻めこれ防ぎおのおの防ぐ事九度、攻むる事九度に及びて全勝負終る。○ベースボールの球 ベースボールにはただ一個の球あるのみ。しかして球は常に防者の手にあり。この球こそこの遊戯の中心となる者にして球の行く処すなわち遊戯の中心なり。球は常・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・今年の新卒業生が有害な制度の犠牲になるのを防ぐために、と職業安定法、労働基準法などの箇条を説明していられます。どのような職業につく人にもあてはまる――つまりことしから就職なさるみなさまのなかのある人々にもあてはまることとして。―― この・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・精神的にも、女の自主的な部分が拡大されることは、私たちの生活の毎秒ごとに起っている悲劇のいくつかを防ぐであろう。悲劇を惨劇に終らせぬ力を増すだろう。そのためにもと、あなたは、女に職業としてではなくても仕事があった方がよいとお考えになる。・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・この危険から身を防ぐためには――梶はその方法をも考えてみたが、すべての人間を善人と解さぬ限り、何もなかった。 しかし、このような暗澹とした空気に拘らず、栖方の笑顔を思い出すと、光がぽッと射し展いているようで明るかった。彼の表情のどこ一点・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫