・・・芸術が自由であれば、それだけ高く昇騰すると信ずることは、凧のあがるのを阻むのは、その糸だと信ずることであります。カントの鳩は、自分の翼を束縛する此の空気が無かったならば、もっとよく飛べるだろうと思うのですが、これは、自分が飛ぶためには、翼の・・・ 太宰治 「鬱屈禍」
・・・十七歳の彼女の心の中の考えはまだはっきりした形をとってこそいなかったが、人間の発達を阻むようないろいろの条件には決して屈伏しないで、一人でも多くの人々が充分の文化の光に浴さねばならないこと、そうして社会進歩はもたらされなければならないという・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・議を認めなかった小市民知識人の大部分も、実際生活では自分たちのうけた知識人としての教養によって日々一定の時間に出勤し、或は労働し、同僚・上役との接触に揉まれ、技術上の問題、技術上の自己の創意性とそれを阻む諸事情を経験しつつある。かかる知識人・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・しかし、これは、評論家としてのこの著者の内にある、よいものが頂点まで育ち切っていないと云うことで、正当な成育を阻む性質のものがあるという意味ではないと思う。 多くの作家たちにも恐らくこの評論集は読まれたことだろう。それらの人々の心にどん・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・発展を阻むものになってきた。近代の歴史の担当者として現れたブルジョアジーは、王権を否定して市民の権利を確立すると共に、ルーテルを先頭に立てて、法王に統率され経済的政治的に専制勢力の柱である天主教の仕組を否定した。そして、市民一人一人の精神の・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・という問題に対して、わたしたちは新しい真実の解答を見いだし、民主主義文学理論が創作の溢れだす力を阻むというような誤った先入観をうち破らなければいけない。作品を書こうとするものを、また旧い小説のかんやこつに追いこんではならない。そういうまちが・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・土地問題は、今日まで、その封建的のままに来ていて、益々日本の進歩を阻む困難と紛糾の種となっている。生産増強のための大きな桎梏となっているのである。大体、明治維新そのものが、崩壊する武士階級の下級者と幕府より目の届きかねる遠い薩長で経済力を膨・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫