・・・わたしの召使いの女の中にも、同じ年の女は二三人います。阿漕でも小松でもかまいません。あなたの気に入ったのをつれて行って下さい。 使 いや、名前もあなたのように小町と云わなければいけないのです。 小町 小町! 誰か小町と云う人はいなか・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・家数四五軒も転がして、はい、さようならは阿漕だろう。」 口を曲げて、看板の灯で苦笑して、「まず、……極めつけたものよ。当人こう見えて、その実方角が分りません。一体、右側か左側か。」と、とろりとして星を仰ぐ。「大木戸から向って左側・・・ 泉鏡花 「菎蒻本」
・・・元来己を捨てるということは、道徳から云えばやむをえず不徳も犯そうし、知識から云えば己の程度を下げて無知な事も云おうし、人情から云えば己の義理を低くして阿漕な仕打もしようし、趣味から云えば己の芸術眼を下げて下劣な好尚に投じようし、十中八九の場・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
出典:青空文庫